「もおおお!また負けたぁ!ちょっとぐらい手加減してよロイド!」
「んなこと言ってもよぉ…。それよりそろそろ休憩しようぜ。いい加減疲れ…」
「まだまだぁ!もう一本!」
「…クレア、だいじょぶ?」
「ふふふ…大丈夫よコレット。次こそ勝てそうな気がするの」
「はぁ…。さっきも聞いたよ、その台詞。クレアってば本当に負けず嫌いなんだから」
「何か言った…?ジーニアス…」
「ひっ…!」
柔らかい笑みを浮かべている片隅で、背中にどす黒いオーラをまとっているクレア。顔は笑っているのだが、大きな瞳はにこりともしていない。
その鬼のような形相に、ジーニアスは慌ててロイドの後ろに隠れ、彼女と再戦するよう促した。いや、この場合「懇願」といったほうが正しいかもしれない。
服を掴んでロイドを見上げるジーニアスの形相は、まさに必死だった。
「もー!分かったよ!やればいいんだろやれば!」
「さっすがロイド!物分かりだけはいいよね!」
「それじゃあ二人共、準備はいい?」
「おうともよ!」
「いっくよー!レディー…」
* * *休み時間も昼食時も放課後も、クレアはロイドに挑み続けた。
しかし、何回やっても結果は同じ。必ずロイドが勝利を収めるのだった。
「結局一回も勝てなかったなぁ…」
「当たり前だろ。クレアは女の子なんだから」
「でも、ちょっと前までは私の圧勝だったじゃない。ロイドが泣きながら『もう一回!』ってお願いするの可愛かったんだけどな〜」
「い、いつの話だよ!」
「…悔しいなぁ…」
泣き虫で怖がりで、いつも私の後ろに隠れてばっかりだったのに。あなたはいつの間にか成長していて、一人前の男になっていた。
嬉しいような悲しいようなこの現実を、何だか素直に受け止められない。
「?何か言ったか?」
「ううん!何でもない。それより早く帰らないとダイクおじさんに怒られちゃうよ?」
「でも、まだ家まで送ってないだろ」
「誰に向かって言ってんのよ。私なら大丈夫。今日は…わがままに付き合ってくれてありがとね。じゃ、また明日」
女の子らしくなんて、がさつな私にはなれなくて。本当はコレットみたいに可愛くなりたい。素直になりたい。
でも、そんなのは私らしくないから。だって可愛くない女の子なんて嫌でしょ?わがままな女の子なんて嫌でしょ?
ロイドにはコレットみたいな女の子がお似合いなんだよ――。
「クレア!」
ぐらり。
視界が揺れた。
すると、目の前にあるのは大きな鳶色。
困っているような、少しだけ怒りが滲んでいるよな。そんな気がする。
「っ、本当に大丈夫だから!」
「何言ってんだよ。魔物にでも襲われたら危ないだろ」
「しつこいなあ…!大丈夫だって言って…」
「俺が怖い!」
「…は?」
「俺が怖いから、一緒に帰ってくれ!…な?」
そう言って向けられたのは、眩しいほどの笑顔だった。
…ずるい。そんなの答えは一つに決まってる。
「…仕方がないなぁ。ちゃんとついてきなさいよ!ロイド隊員!」
「おう!クレア隊長!」
その優しさの卑怯なことと言ったら
(はっ…!ロイド隊員!私、宿題という強敵の存在をすっかり忘れていたであります!)
(あっ…!)
2012.02.25.
thanks:ララドール