晴天。
いつにも増して見事な青空が広がっている。
そんな空の下、真剣な表情を浮かべる一人の青年がいた。バンダナが特徴的な彼の右手には白い封筒が握られている。恐らくラブレターだろう。
道ゆく人々から浴びせられる視線をものともせず、彼――響良牙は練習を繰り返していた。


「あ、あかねさん!そ、その…す、すすす…」

「ねぇ、さっきから何やってんの?」

「うわあああああ!!」


クレアが話しかけると、良牙はものすごい勢いで後ずさった。家のブロック塀を壊し、握りしめていた封筒をフェンスの向こうへと放り投げたところで、話しかけてきたのがクレアだと気付く。
すると良牙は「驚かすなよ…」と胸を撫で下ろした。


「いや、驚いたのはこっちだから。まあ良牙があかねちゃんを好きなのは充分わかってるけど、店の前で告白の練習なんかされたらお客さん入りづらいっつーの」

「なっ…!?どうして分かった!」

「だって顔にかいてあるもん。分かりやすいのよ、良牙は。…それよりも、何か言うことがあるんじゃない?」

「…。お前、その服…どうしたんだ?」

「っ、じゃなくて!店の前であんなことされちゃ迷惑だって言って…」

「そういやこの前『飲食店で働く』って言ってたから…その制服か!」

「…そ、そうだけど!猫飯店の制服だけど!私が聞きたいのはその言葉じゃなくてですねー!」


「ごめんなさい」とか「すみません」とか。普通、謝罪の言葉が開口一番に出てくるものじゃないの?まったく…ひとの話を聞いてるんだかいないんだか。
いや、良牙は度がすぎるほどに生真面目だから、聞いてはいるんだろうけど…その、着眼点がずれているというか何というか。

鈍感、なんだよねぇ…。


「似合ってる」

「…へ?」

「制服、似合ってるよ」


爽やかな笑顔でさらりと言われたそれに、クレアの頬は赤く染まった。
無意識でこういうことをやってのけてしまう良牙は、もしかしたら乱馬よりたちが悪いかもしれない。

生真面目で純粋で方向音痴で鈍感で。だけど、そんな良牙だからこそ好きなんだと、私は思う。




(もう!不意打ちすぎるよ…!)
(ぎゅるるるる…)
(………)
(…へへ)
(…。…ラーメン、食べてく?)
(お、おう!助かるぜ)


2012.02.25. 


thanks:わんだーがーる

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