「神子さま、次の晩餐会は是非私と!」

「いいえ神子さま、私とですわよね!」

「まあ…!抜け駆けは許しませんわ!」

「でひゃひゃ!やっぱり女の子達に囲まれてるのが一番しあわせ〜♪」


むかむか。もやもや。
むかむか。もやもや。

それと同時に、左胸の辺りがちくりと痛む。

だけどこの気持ちを直接伝えるのも悔しいから、ちょっとだけ試してみることにする。
だって私達「一応」付き合ってるんだもん。


「おっはよ、クレアちゃん!」

「…ああ、おはよう」

「?何でそんなにテンション低いのよ」

「ほら。私、低血圧だから」


ひらひらと手を振って、クレアは朝食を目一杯頬張るロイドの元へと走った。
「おはよう」と微笑めば、ロイドは「おう!おはよ、クレア」と、爽やかな笑顔で返してくれる。

それを見たゼロスは、つまらなさそうな表情で席についた。
にも関わらずクレアはというと、隣に座ったゼロスに目をくれることなく、ロイドとの会話に夢中だ。


「もー。ロイド、好き嫌いはダメだよ?」

「…だってコレ、おいしくねぇんだもん」


皿の上でころころ転がるのは、赤く熟したあの野菜。
クレアはフォークを受け取り、小さなそれをロイドの口元まで運んでゆく。


「はい、あーん」


嫌いな食べ物を差し出され、ロイドの顔色は青ざめる一方だ。
しかし、それとは対照的に耳や頬は赤く染まってゆく。

恥ずかしいような照れ臭いような。
でもやっぱり目前にあるそれは恐ろしくて、どういった反応をすればよいのか分からない。

クレアは、わざとらしく眉をハの字に下げてロイドに言う。


「食べてくれないの?」

「うっ…」

「んー…。そんなに嫌なら口移しで食べる?」


――ガタン!

勢いよく立ち上がったのは、ロイドでもなくクレアでもなく、美しい真紅。
ゼロスはその蒼色の瞳を細めてクレアを一瞥し、部屋へと帰って行った。


(…やりすぎたかな)


内省するも、彼が嫉妬してくれたことに思わず頬を緩ませるクレア。
ちゃんと自分のことを好きでいてくれている。それだけでもう充分だ。

クレアは、ゼロスの部屋へと歩みを進めた。


「ゼロス、いるんでしょ?」

「…んだよ」


分かっていた。
彼女が自分を試しているということ。
あえてその理由には触れなかったし、クレアの態度が本気でないことも分かっていた。
けれど、我慢の限界に達してしまうのは真実「クレアが好きだから」

他の女性が知らない男と歩いていても特別気にはならない。
だけど自身の目の前で柔らかく微笑む彼女にだけは、どうしても欲という煩悩が働いてしまう。

「独占したい」と、そう思うのだ。


「あの…ごめんなさい」

「………」

「ごめんね、ゼロス」


そんな風に謝られたら、俺さまの立場がないじゃんよ。
一人で勝手に怒って、クレアの顔を見て安心して、馬鹿みたいだ。

あまりにも子供じみた行動ばかりでは格好悪いから、こちらも少しだけ試してみることにする。


「ねぇ、聞いて…きゃっ!?」

「クレアちゃーん」

「うっわ何その眩しい笑顔」

「俺さまのピュアな心を虐めたお仕置き。…覚悟しろよ?」

「はあ!?ち、ちょっと待った!朝から何言って…」




(最悪!ゼロスなんかもう知らない!)
(とか何とか言ってる割に体は正直だけどなー)
(か、からっ…!?)
(ほっぺた。にやけきってる)
(うっ…!)


2011.05.18. 


thanks:Mr.majorca

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