「わぁ、すっごく美味しいね!」
「でしょでしょ〜!いつかクレアちゃんと一緒に食べたいと思ってたのよー」
メルトキオの市民街の一角にあるベンチで、クレアはゼロスのオススメだというパン屋で買ったスコーンを一口食べるなり声を上げた。その笑顔に満足そうに微笑み返すゼロス。
「うん、わたしもゼロスと一緒に食べられて嬉しい」
しかしその上をいく「幸せそうにはにかむ」というオプション付きのクレアの言葉。
撃沈するのがどちらか、なんて聞かなくてもわかる……俺さまだ。
ロイド達の目を盗んで二人きりで宿屋から抜け出したは良いが、この少女はその意味を理解してくれてるか……いや、なさそ。ちょっと泣けてきた。
「クレア、ゼロス」
「あっ、ラン!」
悲しい現実と向き合った刹那にかけられた声に顔を上げると、見慣れた女性が歩み寄ってくるのが見えた。
ベンチからぴょんと飛び降りて彼女――ランを迎えるクレア。
「どこ行ったのかと思えば、こんなとこ居たのね」
「ゼロスが美味しいって言ってたパン屋さんに行ってきたんだ!」
「へぇ」
そこで初めてランはとっくりとゼロスを眺め、にこり、とも、にやり、ともとれる笑みを浮かべた。
なんだ?正直嫌な予感しかしない。
「ねぇクレア。今からリフィルと出掛けようと思ってたんだけど、良かったら一緒にどう?」
「何処に行くの?」
「イイトコロ」
「『イイトコロ』?」
妖艶に微笑んで放ったランの言葉に、がったーん!とゼロスは立ち上がって二人の間に割って入った。
何処だよイイトコロって!
「ちょ、ランちゃん?クレアちゃん何処に連れてく気!?」
「誘拐じゃないんだからそんなに慌てなくても良いじゃない。ね、クレア」
若干上擦ってしまった声で問えば、けらけらと楽しそうな返事が返ってくる。
つまり彼女の同意さえあれば連れてくっつーことか。
ロイドやジーニアスといった男共も一緒ならまだ良いだろう。
しかしこれから日も暮れる時間に、大人の女性二人が向かう(うち片方は『イイトコロ』と称する)場所……とまで考えて、駄目だ駄目だ!と内心声を荒げた。
「クレアちゃんは!俺さまとお話すんの!なー!!」
「あら、女同士で語り合うのだって楽しそうじゃん?」
さりげなくクレアの肩に手を回して連れていかせまいと抵抗するゼロスと、捕らえられた彼女に「ねー?」と微笑みかけるラン。
そんな二人の誘いに、
「えっと、ランやリフィル先生と一緒にお話するのもすごく楽しそうだけど、ゼロスとお話するのもすごく楽しかったからもっとお話したいし……」
だから、どうしよう?と、困ったように二人を見上げるクレア。
顔には「選べないよ」と書いてあるも同然の表情に、可愛い、なんて想いを抱いてしまう自分は相当重症だ。
ゼロスはつい、と視線をそらして色付いた頬をクレアに気付かれないよう努力した。が、目の前にいるランにはバレバレだったようで喉の奥でくつくつ笑われた。から、睨んでおいた。
「あっ、いたいた!おーい、ランーー!」
そんな、クレア争奪戦に割り込んできた一つの声に、ランは当たり前のように「こっちよ」と返す。
聞き慣れたロイドの声に視線を向ければ、一緒に行くと聞かされていたリフィルだけでなく、コレット達みんなが歩み寄って来ていた。
「クレアも一緒に行くの?じゃあ頑張っていっぱいいっぱい応援しようね!」
「うん!……えっと、誰を?」
「ロイドと姉さんとランの3人で闘技場に出場するんだって」
「闘技場って……はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げたら「五月蝿いよゼロス!」としいなに怒られた。しかし気にせずランに責めるような視線を送れば、
「優勝さえすれば賞金も粗品も手に入るし、いくらか賭けておけばぼろ儲け!
ね、イイトコロでしょう?」
「………………」
素晴らしい程満面の笑みで言い切るラン。
完ッ全に遊ばれた。
絶ッ対確信犯だ。
「ゼロスー、何処を想像してたのー」とにやにや顔で覗き込まれてたら、何かを察してくれたらしいリーガルが「ラン、そろそろ登録を急がないと」と急かしてくれた。おっさんにこんな感謝したの初めてかもしんね。
先頭では「よっしゃ、勝つわよロイド!」「当然だろ!」なんてな熱〜い会話が繰り広げられている一行の後ろをのっそのっそと歩いていたら、
「ゼロス、一杯応援しようね!」
「……そーだな」
わざわざ最後尾の自分の元へ駆け寄ってきてくれたクレアの笑顔につられて、自然と沸き上がる笑み。
彼女への文句は後回しにして、今は隣にいてくれる少女に感謝しよう。
差し出したら重ねてくれた、可愛らしい手の平をきゅ、と繋いだら、心が満たされる感覚がした。
((スターダスト・デュオ))
――降る星に込めた願いの数だけ繋がれる手をとって
うっぎゃあああああクレアちゃん偽者ごめんなさいいいいいい!!!(土下座)
お借りしますとか言っといてこれはない……でもゼロスを弄り倒せたので個人的には大満足。
雪乃様のサイトでへたれたゼロスを語ってたらいつの間にか脳内でランがにやにやしながら弄ってたので文章にしたみたら思いの外ゼロスが可哀想になった。ので最後手を繋がせてみたんですが……別人本当スイマセンちょっとがちで氷の神殿で座禅組んでこようかな。
しかしゼロスがへたれ過ぎる。自分で書いといてアレだが。
クレアちゃん争奪戦の勝者は誰だろう、ゼロスでいいのかな?笑
ちなみにゼロスはホストクラブとかにクレアちゃん連れてかれんじゃないかと危惧しててんぱってたと言い張る。