「アクセスの馬鹿ーっ!!」
ぶわちーん!と何とも痛々しい音がマンションの一角に響く。
音の原因を作ったフィン・フィッシュはその大きな瞳に涙を溜め、何が何だか理解出来ないといった表情で自身を見上げるアクセス・タイムを睨み付けた。
殴られた頬を擦りながらぱちぱちと目を瞬く彼に背を向けて、開放された窓から勢いよく飛び立つ。
「ま、待てよフィン!」
「アクセスなんか大っ嫌い!ついて来ないで!」
準天使の象徴とも言える小さな羽根を精一杯羽ばたかせ、後ろから追って来るアクセスを引き離そうとする。
けれど、誰が見ても二人の力の差は歴然で。距離は開くどころか縮まるばかりだった。
「なっ、何でついて来るのよ!」
いよいよ真後ろに迫ったアクセスがフィンの左腕を捕らえ、力を込めて引き寄せる。
すると、彼女の華奢な身体はいとも簡単に腕の中に収まった。
「なあ、フィン…。何で怒ってるのか理由ぐらい聞かせてくれよ」
「嫌っ!離して!」
手足をばたつかせて抵抗を試みるも、腰へと絡められた両腕の拘束が緩む様子はない。
それどころか無言のままきつく抱き締められ、フィンの心臓は大きく跳ねた。
「どっ、どこ触ってんの!アクセスのえっち!…ま、まろーん!」
言葉と裏腹に高鳴ってしまう鼓動を隠そうと、フィンは大声で助けを求める。
しかし現在の時刻は白昼、日下部まろんは学校で授業を受けている時間だ。
彼女の助けを借りることは不可能に近いだろう。
「…なあ、何で怒ってんだよ」
自身を見つめる真っ直ぐな紫色に、フィンは思わず視線を逸らす。
「…アクセスが、…私のホットケーキ…食べるのが、悪いんだもん…」
俯いたままそう呟くと「そんなことか!」という朗らかな声が頭上から聞こえ、フィンは勢いよく顔を上げた。
「な、何だってことないでしょ!?まろんが買って来てくれた新製品のチョコホットケーキだったんだよ!フィン、食べるの楽しみにしてたんだからあ!」
フィンの目尻にじわりと涙が溜まり始めたその時、アクセスの頭上で豆電球が点滅した。
「…じゃあ、今から食べさせてやろうか?」
「?何それどういう」
「…こういうこと!」
小首を傾げるフィンの顎を掬い取り、彼女の唇に自身のそれを重ねた。
このキスが最後になりませんように
thanks:
Mr.majorca