宿屋へ到着してからクレアはご飯も食べず、休憩もせずにゼロスの看病をし続けた。
しかし、ゼロスが目を覚ます気配はない。
「ゼロス…」
「ねぇ…起きてるんでしょ?本当は眠ってるふりをしているんでしょ?」
涙目になりながら言ったが、ゼロスからの返事はない。
「死んじゃ…嫌だからね…そんなの許さないんだから…」
が、やはりゼロスから返事はない。
「わっ…私のせいで…」
遂に堪えきれなくなりクレアの瞳から涙が溢れ出す。
ゼロス
ゼロス
ゼロス
ゼロス
ゼロス――。
「ゼロス…っ」
クレアの頬に温かい何かが触れて涙を拭い去る。
「ゼ…ロス?」
「…心配掛け……てごめん…な」
聞き覚えのあるこの声は。
「ゼロス…!」
「…ああ」
幻聴なんかじゃなくて、本当に本物のゼロスの声だ。
「良かっ…」
安堵と疲労のせいからか、瞼がズシリと重くなりクレアの記憶はここで途切れた。
「寝ずにずっと看病しててくれてたんだな…」
まだ少し重い上体を起こしながら、子供の寝顔を見ている親のように穏やかな表情でゼロスはクレアの頭を撫でてやる。
「ありがとな」
きっと君には聞こえていないのだろうけど、心からのありがとうを――。
噛み砕いた涙
2009.07.11.
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