「馬鹿な…。最強の戦士である天使が、こんな人間共に…」
血の滲んだ法衣を押さえレミエルは地に伏した。急いでロイドとクレアが祭壇へと駆け寄り、虚ろな瞳でそこに佇むコレットに声を掛けた。
「コレット、戻って来い!俺達が必ず元に戻してやるから」
しかしコレットは呼び掛けに反応せず、唯々前を見つめるだけだった。クレアの目尻に涙が浮かぶ。
「コレット…本当に私達のこと、忘れちゃったの?」
弱々しい声で呟いたそれにも、コレットが反応することはなかった。代わりに、よく聞き慣れた低い声がそれに答えた。
「無駄だ。その娘には、お前達の記憶どころかお前達に耳を貸す心すらない。今の神子は死を目前にしたただの人形だ」
腕組みをして二人の目前に現れたのは腰に長剣を携え、共に旅をした傭兵――クラトス。鋭い鳶色が一行に向けられた。仲間達が驚きの色を隠せない中、リフィルだけは「予想していた」といった表情を浮かべていたが。
「お前、今までどこにいたんだ!何を言ってるんだ!?」
「神子は世界の再生を願い、自ら望んでそうなった。神子がデリス・カーラーンに召喚されることで初めて封印は解かれ、再生は完成される」
「クラトス…?どういうことだ…!?」
ロイドはじりじりと後退しながら宙に浮かぶコレットを一瞥する。クレアはただその場に立ち尽くしていた。
何…?どうしてクラトスさんが私達と対峙する位置にいるの?訳が…分からないよ…。
「お前達もそれを望んだ。神子はマーテルの新たな体として貰い受ける」
「どういうことなんだ!クラトス…答えろ!」
堪らずロイドが咆哮するが、クラトスはそれを軽く受け流すだけだった。その時、倒れていたはずのレミエルが身体を引き摺りながらクラトスの足元へと近付いた。
「クラトスさま、慈悲を…。私に救いの手を…」
「忘れたか、レミエル。私も元は劣悪種…人間だ。最強の戦士とは、自身が最も蔑んでいた者に救いを求めることなのか」
「ぐっ…」
伸ばした手がクラトスに届くことはなく、行き場をなくしたそれはがくりと垂れた。力尽きたレミエルを後目に、クラトスはコレットへと近付く。するとロイドとクレアが二人の間へと割り込んだ。ロイドは双剣を構えながら、クレアは瞳に大粒の涙を浮かべながら。
「そこをどけ」
「クラトス…お前は一体何者なんだ」
「…私は世界を導く最高機関クルシスに属する者」
ロイドが問うとクラトスの身体が光に包まれ、背中に蒼色の天使の羽が広がった。コレットのそれと、よく似ている。
「神子を監視する為に差し向けられた四大天使だ」
「てん、し…?」
「あたし達を騙してたのか!」
突然の出来事に瞠目するクレアの後ろでしいなが叫んだ。クラトスは視線をクレアからしいなに向けた。
「騙すとは?神子がマーテルと同化出来ればマーテルは目覚め、世界は救われる。それに不満があるのか?」
「そして女神マーテルに体を奪われることで、コレットは本当の意味で死を迎えるのね」
「違うな。マーテルとして新たに生まれ変わるのだ」
クラトスがコレットへ手を伸ばすと、ロイドが戦闘体勢に双剣を構え直した。
「…やらせるか!コレットは、俺達の仲間だ!」
to be continued...
(09.12.01.)
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