「…レミエルさま。シルヴァラントには隣り合うテセアラという世界があるそうですね」

「そなたが知るべきことではない」

「クルシスでも両方の世界を平和で豊かな世界にすることは出来ないのかい!」


リフィルが、しいなが、レミエルへと問う。するとその穏やかな笑みが消え、蔑むような目線を一行に向けた。


「…神子がそれを望むなら、天使となって我らクルシスに力を貸すと良い。神子の力でマーテルさまが目覚めれば、二つの世界は神子の望むように平和になろう」


そこで救いの塔に到着して初めてコレットの言葉を耳にした。クレアだけでなくレミエルにもその声は届いているようで、天使は無慈悲な笑みを浮かべて言い放った。


「本当か、だと?何故自分がここに来たのか神子は分かっておろう?」

「………」

「まさか本当に…死ぬつもりかい!?」


しいなの問いにコレットはゆっくりと立ち上がり仲間達を振り返った。言葉はなくともその表情からは強い決意が感じ取れる。レミエルの元へと歩みを進めた、その時。


「…駄目だコレット!お前が犠牲になったら、お前のことが好きな仲間も家族も友達も…俺も!みんなが悲しくて犠牲になるのと同じだ!」

「………!」


ぴたり、コレットの足が止まった。後ろ姿から躊躇しているのが分かる。今にも祭壇へとよじ登りコレットに駆け寄ろうとするロイドをジーニアスが無理矢理引き止めた。


「離せ、ジーニアス!」

「ボクだってコレットが変わってしまうのは嫌だけど、それならどうすれば良いの!シルヴァラントのみんなも苦しんでるんだよ!」

「それは…」


ジーニアスの言葉にロイドは大人しくなる。私だって、今すぐにでも祭壇を駈け登ってコレットを引き止めたい。
『…コレットがそう望むなら…』自身の放った言葉が頭の中でぐるぐると繰り返される。そこに、レミエルが拍車を掛けた。


「神子一人が犠牲になれば世界は救われる。それともお前は世界より、神子の心だけが救われた方が良いというのか?さあコレットよ。父の元へ来るのだ」


コレットが再び一歩を踏み出すと、ジーニアスを振り切ったロイドが祭壇近くまで駆け寄った。悲痛な叫びが塔内に響く。


「待てよ!レミエル!本当に他の方法はないのか?コレットはあんたの娘なんだ。あんただって、本当はコレットが死ぬことなんて望んでないんだろ!」

「…娘だと?笑わせる。お前達劣悪種が、守護天使として降臨した私を勝手に父親呼ばわりしたのだろう。私はマーテルさまの器として選ばれたこの生贄の娘に、クルシスの輝石を授けただけだ」


ロイドは堪らず祭壇へと駈け登り、コレットの肩へ手を置いた。ぐ、と力を込めればいつもの優しい笑みを湛えたコレットがこちらを向いた。


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