仕掛けや建物の配置に至るまでを余すことなく記憶していたジーニアスの指示に従い、難無く祭壇に辿り着くことが出来た一行。


「しいな。契約ってやつを頼む」

「…分かった。やれるだけ、やってみるよ。…ちょっと怖いけどね」


最後の方は誰にも聞こえないよう小さな声で呟いたが、天使聴覚を持つコレットの耳にだけは、しっかりと届いていた。

しいなが祭壇の前に立つと、祭壇の中心で輝いていた青白い光が弾け、人に似た姿を形成した。
それは若い女性の姿に似ており、紫色の髪は水のように流動している。額から後頭部にかけて、大きな鰭のようなものがあり、ルビー色の瞳がゆっくりとしいなを捉えた。


「契約の資格を持つ者よ。私はミトスとの契約に縛られる者。あなたは何者ですか」

「我はしいな。ウンディーネとの契約を望む者」

「私は、既に契約を交わしています。二つの契約を同時に交わすことは出来ないのです」


しいなは仲間達を振り返り、助けを求めた。


「…前の契約を無かったことにしてもらえば良いんじゃないか?」


ロイドが明るい調子で言うと、クラトスがそれに続いた。


「精霊との契約には誓いが必要だ。契約者が誓いを守る限り、契約は行使され続ける」

「それは知ってるよ。精霊は契約者の誓いに賛同し、契約を交わす」


しいなは一つ一つを思い出すように、身振り手振りをつけて返答した。


「そうだ。だからお前はロイドの言う通り、過去の契約の破棄と、自分との契約を望めば良い」

「…分かったよ」


そう言って祭壇を振り返った。ウンディーネを真っ直ぐに見据え、凜とした声が響き渡る。


「我が名はしいな。ウンディーネがミトスとの契約を破棄し、私と新たな契約を交わすことを望んでいる」

「新たな誓いを立てる為に、契約者としての資質を問いましょう。武器を取りなさい」


思いも寄らない事態に一行が狼狽えていると、ウンディーネの手に水のマナが収束され、一本の大剣へと姿を変えた。


「…行きます」


先程までの穏やかな表情は消え、大剣を構えた。


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