綺麗な星空の元、一行は焚き火を囲んで座っていた。一体どのぐらいの時間をこの状況のまま過ごしたのだろうか。クレアがそう思った時、しいなが神妙な面持ちで立ち上がった。
「…皆、聞いてくれないかな」
「…どしたの?急に」
「どうしてあたしが神子の命を狙っていたのか、話しておきたいんだよ」
その言葉にリフィルが頷き、声を立てる。
「聞きましょう。この世界には存在しない、あなたの国のことを」
「知ってたのか!?」
「いいえ。でも、あなたが言ったのよ?シルヴァラントは救われるって。それならあなたは、シルヴァラントの人間ではないということでしょう」
正鵠を得たリフィルの発言に、しいなは嘆息した。
「その通りサ。あたしの国は、ここにはない。このシルヴァラントには」
「…シルヴァラントにはない、ってどういうこと…?」
コレットと寄り添うようにして座っていたクレアが、疑問を投げ掛けた。
「あたしの国は『テセアラ』そう呼ばれている」
「テセアラ!?テセアラって月のこと?」
ジーニアスは瞠目し、信じられないといった様子で身を乗り出した。
「まさか。あたしの国は確かに地上にある。あたしにだって詳しいことは分からないけど、このシルヴァラントには光と影のように寄り添い合う、もう一つの世界がある」
しいなは仄かに霞んだ月を見上げ、僅かに目を細めた。
「それがテセアラ…つまりあたしの住む世界サ」
「寄り添い合う、二つの世界?」
リフィルは眉を顰めて細い顎に手を当て、思考する。
「二つの世界は常に隣り合って存在している。ただ『見えない』だけなんだ。二つの世界は見ることも触れることも出来ないけれど、確かにすぐ隣に存在して、マナを搾取し合っている」
しいなは目線を仲間達に戻し、説明を続ける。
「片方の世界が衰退する時、その世界に存在するマナは、全てもう片方の世界へ流れ込む。その結果、常に片方の世界は繁栄し、片方の世界は衰退する。…砂時計みたいにね」
「それじゃあ、今のシルヴァラントは…」
「そう。シルヴァラントのマナはテセアラに注がれている。だから、シルヴァラントは衰退する」
マナがなければ作物は育たないし、魔法も使えなくなっていく。命にとって、マナは水よりも大切なものだということ。マナがなければ、大地は死滅する。その話は、クレアも耳にしたことがあった。
「…神子による世界再生は、マナの流れを逆転させる作業なのかしら?」
そう言うことだね、としいなは頷いた。
「…あたしは世界再生を阻止する為に送られて来た。越えられないはずの空間の亀裂を突き抜けて、テセアラを守る為に」
そう言ってしいなが仲間を見回すと、薪の爆ぜる音だけが夜空に響いた。
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