かつてのパルマコスタ人間牧場と同じように自爆装置を起動させた数分後、アスカード人間牧場は脆くも崩れ去った。
現在はアスカードの宿屋《清風舘》の一室にて、コレットが眠っている。否、目を瞑っているだけだろう。
クレアの応急処置によって傷口はすぐに塞がったが、その痛々しい姿を見て、居た堪らなくなったロイドは遂に真実を打ち明けた。
「…皆、聞いてくれ。コレットには今、感覚がないんだ」
クレアはベッドの脇にある椅子に腰掛け、そっとコレットの様子を伺う。
(…世界、再生…)
隣の部屋でロイドが詳しい事情を説明していた。ジーニアスとしいなは驚愕し、リフィルは無言でコレットとクレアが居る部屋に目を遣った。クラトスの表情は、長い前髪に阻まれて伺うことが出来なかった。
「じゃあコレットは、封印を解放して天使に近付く度に、人間らしさ…みたいなものを失ってるっていうのか?」
「それに、世界を再生した後はこの地上でたった一人の天使になっちゃうんでしょ?…そんなの辛いよ…」
ジーニアスの問いにリフィルが答えようとすると、部屋の扉が開いた。コレットとクレアが部屋に入って来る。
「…ごめんね、皆。今はちょっと大変だけど、完全な天使になったら過ごしやすくなるかもしれないから…。私なら、だいじょぶだよ」
コレットが微笑んだその後ろ、クレアは暗い面持ちで俯いていた。
(…私は、私はどうすれば良いの…?)
病み上がりであるにも関わらず仲間達を気遣うコレットの態度に、しいなは涙混じりに言う。
「でも、辛いじゃないか!誰かと手を握っても、その人の温かさも感じられないなんて…。世界再生なんて止めちまいなよ!」
しかし、コレットはゆるゆると首を振った。
「…ありがと、しいな」
しいなの手を取り、優しく包み込む。そして、彼女を真っ直ぐ見据えた。
「でも、ここで止めたら世界中の苦しんでいる人が救われないから。私、世界再生の為に生まれたんだからちゃんと自分の仕事をするよ。…ね?」
「…でも、コレット」
二人の様子を伺っていたリフィルが口を挟むと、コレットはしいなに微笑み掛け両手を解放した。
「あなたが選んだ道は、とても辛い道なのよ?」
「…はい、先生」
コレットは胸の前で手を組み、これから起こる運命全てを受け入れるかのようにして頷いた。
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