「母さん…こんなものに命を吸い取られて、辛くなかったのか?」
深い繁みに覆われた中、大きな切り株に腰掛けて、ロイドは問う。その視線の先には、月光に照らされて不思議なほど美しく輝く、エクスフィア。
「俺がこれを使って、それが許されるのか…?」
そっとエクスフィアを握り、膝を抱えて顔を埋めたその時、背後から葉の擦れ合う音が聞こえる。
(…モンスターか!?)
その体勢のまま双剣に手を掛け、勢い良く振りくと、傷だらけのクレアが立っていた。
「どうしてここが…」
「えへへぇ。何となくだ…」
「クレアっ!」
ロイドはクレアの腕を引き、抱き寄せる形になる。そのお陰で何とか転倒は未然に防がれた。
「ありがとう、ロイド」
そう言ってクレアが顔を上げると、頬に痛々しい引っ掻き傷があり、思わず凝視してしまう。
「これ、見た目ほど痛くないからだいじょぶだよ。…それより、ロイド」
「へ?」
突如自分の名前を呼ばれ、ロイドは大きな目をぱちくりさせる。
「私、もうだいじょぶだよ?」
クレアがにこりと微笑むと、互いの距離が近かったことに気付き、慌ててクレアを解放し、背を向ける。
「ごっ、ごめん!」
「?…うん」
クレアは小首を傾げ、何故ロイドが謝ったのかを考えるが、埒が明かなさそうなので思考を止め、後ろ姿に問い掛けた。
「…もしもだよ?ロイドがエクスフィアに命を吸い取られたとしたら…どうしてもらいたい?」
「…俺、は…」
クレアは握っていた拳を開き、掌の上にあるエクスフィアを見つめる。
「…私だったら、これ以上エクスフィアの犠牲者が出ないように、この悲しい連鎖を断ち切ってくれる志を持つ人に、使って欲しい。…皆、好きでエクスフィアになった訳じゃないんだもの…」
二年前の出来事を思い出しながら、クレアは言った。
「…私ね、エクスフィアから力をもらう時、いつも暖かい感じがしてたんだ。あれは、お母様が力を貸してくれてた。…ロイドは、どんな感じがしてたの?」
「それは…」
クレアは自身のエクスフィアをロイドの掌に乗せ、優しく両手で包み込んだ。
「大切なのは、ロイドがエクスフィアとどう接するか…だよ」
それだけ言うとクレアはゆっくりと手を離し、自身のエクスフィアを手に取って立ち上がる。
「じゃあ、また明日ね」
「…クレア」
ロイドが呼ぶと、クレアはくるりと振り返る。
「怪我、してるだろ?」
「これくらい全然だいじょぶだよ〜」
しかしロイドはクレアの言葉を無視して腰に手を回し、俗に言う《お姫様抱っこ》をする。
「あ、あの…ロイド?」
「足、捻ってるだろ」
「えへへ…バレちゃってたかぁ」
クレアはごめんね、と謝罪し、そのまま大人しく陣まで運ばれた。
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