「ぬっ!お前達は!」
一行を見るなり、筋骨逞しい男が声を上げる。
イセリアでクレア達を襲った男――ボータとその部下だった。
「ボータ様、これは好機です!」
部下の一人が武器を構えると、ボータはそれを制止する。
「待て、クラトスがいる。ここは一旦退くのだ」
ボータが言うと、部下は大人しく命令に従い、臨戦体勢を解く。
「…ここはお互いの為、退きましょうぞ」
クラトスを真っ直ぐに見つめ、ボータは言った。
「…勝手にするがいい」
クラトスが言うと、ボータ達は一行の横にある扉へと、姿を消した。
ボータ達が退場し、一行の気持ちが僅かに緩んだその時、扉の向こう側の異変に気付いたコレットが、ロイドの間に入る。
「…コレット?」
クレアがコレットの元へ近付くと、駆けて来たクラトスに腕を掴まれ、そのまま後ろに投げられた。
「ひゃうっ!?」
「うわあっ!」
ロイドにぶつかり、二人揃って転倒してしまう。
その時、コレットの目の前にある扉が開き、ディザイアンによって発動された魔術が二人を襲う!
が、クラトスがコレットを庇うように防御技を発動させ、ディザイアンの攻撃は不発に終わった。
「ありがとうございます、クラトスさん」
「いや…。それより、後ろだ!」
コレットが礼を述べると、魔術を唱えたディザイアン達が、素早い動作で二手に分かれた。
「ほう、これは驚きました。鼠と言うからてっきりレネゲードのボータかと思いきや、手配書の劣悪種とは…」
鋭い目付きに、吊り上がった口角、大きな肩当てがついた軽鎧を装備し、砂色の髪を全て後方に撫で付けている、酷薄な印象の男が姿を現す。
「お前は何者だ!」
ロイドの問いには、クラトスが答えた。
「奴はディザイアン五聖刃の…クヴァルだ」
クヴァルは細い目を更に細め、値踏みするかのようにロイドを、否、その左手に輝くエクスフィアを見つめる。
「成程、フォシテスの連絡通りだ。確かにそれは、私の開発したエンジェルス計画のエクスフィアのようですね」
クヴァルが一歩を踏み出したその時、コレットのチャクラムが空を切る。
クヴァルは首だけを動かして、それを回避する。
一行がその場から逃げるには充分な時間だった。
牧場内を駆け巡っている途中に、巨大なベルトコンベアを見つける。
そこには収容されているのであろう人々が、虚ろな表情のまま、流されてゆく。
壁に阻まれて姿が見えなくなった時、耳を劈くような悲鳴が聞こえる。
その先に流れていたのは、透明な箱に収められたエクスフィア。
先程流れていたはずの人間の姿は、ない。
「な…何だ、これは…」
驚愕したロイドが声を上げた時、背後から冷たい声が響く。
「培養体に埋め込んだエクスフィアを、取り出しているのですよ」
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