「たっ、助けてくれ!」
悲鳴と共に、法衣姿の老人が姿を現した。
そちらを振り返って、彼の後ろにいたものを見るなり、一同は息を飲む。
「あ、あれは…!」
緑色の爛れた皮膚に、引き摺る程に長い腕。
その先には鋭い鉤爪が生えており、頭部には赤く光るエクスフィア。
忘れるはずもない、パルマコスタで牢に囚われ、最後の力を振り絞ったキリアに放たれた、それ。
ドアの妻、クララの変わり果てた姿だった。
「止めろこの化け物!」
暗殺者が老人の前に立ちはだかるも、軽々と吹き飛ばされてしまう。
「落ち着いて下さい、クララさん!」
コレットがクララへ近付こうとすると、長い腕を振るわれ、その風圧で尻餅をついてしまう。
「コレット!」
一行がコレットへと駆け寄った隙に、クララは街の外へと逃げていった。
「コレット、だいじょぶ?怪我はない?」
「う、うん。私はだいじょぶだよ、それより…」
コレットがその体勢のまま暗殺者に目を遣ると、彼女の腹部には深い傷。
そこからは、どくどくと血液が流れ出ていた。
「…この娘、出血が酷いな」
「先生!こいつを手当てさせてやってくれよ」
「姉さん!」
「…お願いします!」
一人一人の顔を見回し、これ以上は何を言っても無駄だと思ったのか、リフィルは肩を竦め、溜め息をつく。
「…分かりました。本当に、皆お人好し過ぎるんだから」
クレアはすぐさま暗殺者の傷に手を翳し、治癒術を施す。
温かな光が暗殺者を包み込むと、瞬きをした僅かな間に、傷は跡形もなく消えていた。
「…なんで、あたしを助けたのサ」
「多分、あんたがあの人を助けたのと同じ理由だよ」
そう言ってロイドは法衣姿の老人を指差す。
彼は肩で息をしているものの、怪我一つ負ってはいなかった。
「…ありが、とう」
「どういたしまして。…でも、無理はしないで下さいね」
怖々とお礼の言葉を述べた暗殺者にクレアが微笑みかけると、彼女は蹌踉と立ち上がり、ロイドの前まで歩いて行く。
「…この街の人には、一宿一飯の恩義があるんだ。この街の人を助けてあげてくれよ!その為なら、あんた達と一時休戦して協力しても良い」
ロイドは刹那、頭を捻らせ、首を縦に振った。
「…分かった」
「ロイド、本気なの?」
余りにもあっさりとした承諾に、リフィルは驚きを隠せない様子だった。
「私は賛成」
「私も。暗殺者さんの目は、嘘を吐いていないと思います」
コレットとクレアは、力強くはっきりと言い切った。
「残りの皆は?」
「構わんだろう」
「えっと…、姉さん…ごめん!」
ロイドの問いに、二人も首を縦に振る。
それを見たリフィルは呆れ、溜め息をつく。
「もう!好きになさい」
コレットとクレアは暗殺者へと近付き、
「これからよろしくお願いします。えっと…」
「…しいな」
二人は互いに顔を見合わせ、新たな仲間、しいなに向かってにこりと微笑んだ。
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