コレットの体調は、昨日の出来事が嘘であったかのように回復した。
しかし、感覚を失ったことにより、怪我をしても気付かないことが多くなった。
ジーニアス等は、普段のドジが少しばかり過剰になったようだと感じているようだったが、ロイドとクレアはそんなコレットの姿を見る度に、胸が抉られるような、居た堪れない気持ちになった。
次に目指す、マナの守護塔に入る為の鍵がルインの教会で管理されているということで、クレア達一行は《希望の街》と呼ばれるルインへと足を運ぶ。
しかしそこで目にしたものは、お世辞にも《希望の街》とは形容出来ない程に破壊され尽くした街だった。
地面には所々大きな穴が開いており、建物は燃え尽きて灰と化している。
中には辛うじて形を形成しているものもあったが、もう建物として機能することはないだろう。
しかし、死体はおろか、人影すら見当たらない。
まるで街全体が神隠しにあったかのようだった。
クレア達は以前知り合いが住んでいた、というクラトスに道案内を頼み、街の広場であったのだろう場所へ辿り着く。
すると、見覚えのある女が噴水を背に凭れ掛かっていた。
「お前、こんなところまで!」
「どうしたんだ?…傷だらけじゃねぇか」
驚いているジーニアスを余所に、ロイドは満身創痍の暗殺者へと近寄る。
「酷い怪我…。先生、クレア!手当てしてあげて下さい」
コレットが二人の名を呼ぶと、クレアが真っ先に暗殺者に駆け寄り、治癒術を施そうと手を翳す。
「お待ちなさい、クレア」
リフィルが冷たい声でそれを制止する。
「…先生!酷い傷なんです!すぐに治療しなきゃ…」
その時、ゆっくりと瞼を開けた暗殺者が、クレアの手を払い除ける。
「…あんた達、か。今ならあたしに止めを…刺せるよ。戦う力は残ってないからね」
「……先生っ!」
コレットとクレアが、必死にリフィルを呼ぶ。
「…これが、私達を油断させる罠じゃないとは言い切れなくてよ」
「はっ!見てくれ通り、陰険な女だ…え?」
(…ファーストエイド)
クレアが意識を集中させて心の中で唱えると、目には見えない内部の損傷が治療されてゆく。
外傷も見た目こそ変わらないものの、痛みを感じない程度にまで治療されていた。
「…陰険で結構」
リフィルは冷ややかな目線で暗殺者を一瞥する。
「…ありが…」
暗殺者が言いかけると、クレアは慌てて人差し指を唇に当てる。
それが指し示す意味を理解したのか、暗殺者は何事もなかったかのように語り出す。
「…ここから北東に、人間牧場ってのがあるのを知ってるかい?」
暗殺者の言葉に、一行はこくりと頷く。
「ここの街の人達は、牧場から逃げ出した奴を匿ったんだよ。それがバレて全員強制的に牧場送りの上、街は破壊されちまったのサ」
「それじゃあ、あなたの怪我は?」
コレットが尋ねると、暗殺者は遠くを見、ちょっとドジっただけサ、と嘯いた。
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