救いの小屋へ到着したクレア達一行は、スピリチュア像の提供を求める。


「神子様の仰せなら何を迷うことがありましょう。…これ、像をここへ」


一人の祭司がスピリチュア像をクレア達の目の前まで何やら落ち着かない様子で運び、言った。


「…も、申し訳ございません!この導師スピリチュア像は、私が用意した偽物でございます」


クレア達は勿論のこと、運ぶようにと言った祭司長までも訳が分からない、という顔をしている。


「初めて見る間欠泉にひどく感動致しまして…。気付いた時、像は間欠泉の向こうの岩場に落ちておりました。困り果てた私は、イセリアのドワーフの元を訪ねまして、同じような物を作らせたのでございます」

「…親父。どんな仕事してるんだよ」


ロイドが溜め息を吐き、頭を掻いていた隣で、リフィルが顎に手を当てて考え込む。


「間欠泉…厄介だわ」

「俺が取りに行くよ」


ロイドが声を励ますと、凄い勢いで平手打ちが飛んで来る。


「間欠泉は熱湯です!危ないでしょう!?」

「ばっかじゃないの。地理の時間に習ったこと忘れてたんでしょ」

「う、うるせーな…」


セイジ姉弟にきつく言われ、しどろもどろになるロイドを見て、コレットとクレアは愉快そうに笑う。

遊覧船乗り場からソダ間欠泉へ船が出ている、と聞いた一行は受付を済ませて船着き場へと向かい、その光景を目の当たりにして唖然とする。


「たらい…だよな?」

「たらいだ…」

「たらい、か…」


ぷかぷかと水面に浮かんでいるのは船と呼ぶにはあまりにも小さい、櫂が一本固定されているだけのたらいであった。


「うわぁ、面白そう!」

「私、ワクワクしてきちゃったよ〜♪」


コレットとクレアの二人が我先にとたらいに乗り込むと、それだけで少し船体が傾いた。


「わ、私はここで待っています。さあ、行ってらっしゃい」


青ざめたリフィルが、後退りしながら言った。


「どうしたんだよ先生」

「そうだよ、姉さん!」


ジーニアスが手を引き、一歩を踏み出した時だった。


「…きゃ…」


先に乗り込んだ二人は、楽しそうに狭いたらいの上で燥ぎ回っている。
残りの男性陣三人は、リフィルの悲鳴に驚愕していた。


「先生、まさか…水が怖い…とか」

「きゃ…きゃあ楽しみ、と言い掛けたんです!」


そう言って、リフィルは覚束無い足取りでたらいへと向かった。


* * *



「ほら、先生」


一足先に陸に上がったロイドは、未だ気分の悪そうなリフィルへと手を差し伸べる。


「面白かったね〜」

「うん、海水が入って来た時は転覆するかと思ったよ!」


二人の少女は未だ、楽しそうに笑い合っていた。

間欠泉を間近で見てロイド達が興奮している中、コレットが「あれ?」と目を細めれば何とか確認出来るぐらいに映る大きさの物を指差した。


「よーし、じゃあ頼むぜジーニアス、クレア!」


二人は呼吸を整えて気を集中し、詠唱を始める。
その間、どうやら無事に回復したらしいリフィルは、旅行者が驚かないよう、これから起こることを事前に伝えていた。


『アイシクル!』


二人の声が重なると、吹き上がる熱湯が見る見るうちに氷と化してゆく。
ロイドは軽い身のこなしでスピリチュア像の元へ辿り着き、それを脇に抱えて戻って来る。


「よし、あのジジイのところに戻ろ…」

「ねぇ、これって神託の石盤じゃないかなぁ?」


魔術が解け、再び間欠泉が噴き出した時、クレアが皆に問い掛ける。
真っ先に反応したのは、遺跡モードのリフィルだった。


「じゃあ、手を置いてみますね」


コレットが石盤に手を置くと、間欠泉の向こうの岩場に洞窟の入口が現われる。
そして、石盤を置いてある位置から洞窟までを繋ぐ、水の橋が出現する。


「くくく…。早速調査に向かおう」

「調査じゃねぇだろ調査じゃ…」


ロイドは独り言ちた。


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