風が吹き、命がそよぐ。
荒涼とした大地に、若草色が一つ。
この世界に息づく‘命’を感じ、少女は。
蕾は花片へと姿を変え、花片は少女の体を優しく包む。
犠牲になったたくさんの命が、少女の体へと注がれた。
今ここに、新たな命が誕生しようとしている。
若草色の瞳が柔らかい笑みを浮かべ、少女の頬を一撫でした。
ぎゅうっと、鼓動を確かめるよう抱きしめれば、少女は新たな命に生まれ変わる。
『誕生』
かつて天高く空を仰いだ《救いの塔》は跡形もなく、崩れ落ちた瓦礫だけが残っていた。
その中で息づく小さな命に触れ、女性は微笑む。
「私はマーテル。そして《大いなる実り》そのもの。人々の希望が、そしてロイド。あなたの希望が、私を甦らせた」
地上に降り立った少年と少女に、マーテルは優しく微笑みかける。
「あなたが、ミトスの姉さん?」
「いえ。ミトスの姉であったマーテルは、私の中の一人にすぎません。私はマナそのものであり、大樹そのもの。《大いなる実り》に吸い込まれた、たくさんの少女達の象徴」
太陽が輝いている。
風がそよいでいる。
命が息づいている。
時間が流れている。
大地は…生きている。
「大樹と寄り添う為に誕生した、新たな精霊。そして種子は今、私と共に新たな目覚めを迎える」
――どくん。
鼓動を感じる。
主軸となる大樹の幹は立派に成長し、幾千もの枝を伸ばした。
その先にたくさんの葉をつけ、ロイド達の目前に新たな‘命’が芽吹く。
葉と葉の間から、優しい薄陽が差し込んだ。
「…これが、大樹カーラーン…」
「すごい…とても大きくて、綺麗…」
「これが大樹の未来の姿。でも今は、まだ小さな芽。このままではすぐに枯れてしまうでしょう」
「どうしたら、大樹を守れるんだ?」
自然と人とは、共存する運命にあるのだ。
人は、自然がなくては生きてはいけない。
ロイドは、否、人は、それを知っているから。
「この大樹を慈しみ、愛すること。その約束が果たされる限り、私もこの樹を守りましょう」
「約束する。もしも樹が枯れそうになっても、必ず俺が、俺達が食い止める!」
「ではロイド。代表として、あなたにお願いします。契約の証として、この大樹に新たな名前を」
大樹カーラーンは、かつてエルフがこの大地にやってきた時、彼らを護るものとしてここに植えられた樹。
だからこそこの樹には新たな名前が必要なのだ。
この樹は、エルフと、人と、その狭間の者すべての命を守る存在だから。
「ロイド、名前を決めてよ。私達みんなの樹に」
「この樹は、世界を繋ぐ《楔》なんだよな」
悲しいことだってある。
汚いものや醜いものだって、たくさん存在する。
だけど、そんな世界だからこそ強く思う。
この世界が好きなんだ。
嬉しいんだ、この世界に自分が『自分』として、生きていられることが。
「よし、決めた!この樹の名前は…」
to be continued...
(11.04.17.)
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