天高くそびえていた《救いの塔》は今や跡形もなく、土台だけが残っていた。
以前ゼロスを追って使った転送装置や、コレットが祈りを捧げた祭壇なども残っていない。
今度こそ、最後の戦いになるだろう。

仲間達が見守る中、エターナルソードへと手を伸ばしたロイド。
あの時のように障壁に弾かれることはなく、エターナルソードは紫色の光となり――赤色と青色の光に分裂した。
赤色の光はフランヴェルジュへ、青色の光はヴォーパルソードへと宿る。


『新たなる資格を持つものよ。我に何を望む?』

「俺達をデリス・カーラーンへ運んでくれ。ミトスと、大切な仲間のいるところへ!」


柔らかな光に包まれ、クレア達一行はデリス・カーラーンへとたどり着く。
心を失った騎士やさまよう魂。天使達が幾度となく立ち塞がるが、一行は足を止めなかった。

先頭を走るロイドが敵に突っ込み、その後ろを走るしいな達中衛がサポートに回る。
数の多い敵には、クレア達後衛の魔術が容赦なく炸裂した。

コレットを助ける為、ミトスを止める為、クレア達一行は走る。


「な、何だ?」

「いけない!罠だわ!」

「そうか…こいつが例の…。ロイド!デリスエンブレムだ!そいつがあれば…」


ゼロスのその言葉を最後に、仲間達の姿は掻き消えた。
見たところ殺傷能力はなさそうだが、ここで散り散りになるのはまずい。

また、ゼロスが言った《デリスエンブレム》とは、一体どのようなものなのだろうか?


「…くそっ!どういうことなんだ。みんなは…どうなっちまったんだ?」

『大丈夫だ。お前の仲間の命のきらめきが感じられる。彼らは、この都市のどこかにいる』


オリジンの声が、ロイドの脳裏に響いた。
確かな証拠は何一つないけれど、仲間達はきっとあの時のように集ってくれる。

彼らを信じているから。

ロイドは、転送装置に向かって走った。


「私から出ていって!」

「くっ…何て抵抗力だ!このままでは…」


ロイドの視線の先に、美しい金糸が揺れていた。

あれは――コレットとミトスだ。


「ミトス!コレットから離れろ!」

『ボクに指図するな!人間のくせに…クラトスの…血を引くくせに!』


ロイドの視界が白い光に包まれる。
あまりの眩しさに瞑った瞼を開けるとそこには、ミトスがいた。

若草色の女性を抱く彼の手は、頬は、赤く濡れている。

一体、何が起きたというのだ。


「よくも…姉さまを…!」

「…人間!きさま達を生かしてはおかない!」

「外道が。それほどまでにマナを独占したいか」

「もう許さない…!人間なんて…汚い!」


ミトスだけではない。
ユアンが魔術を唱え、クラトスが長剣を構えた。

憎しみに駆られた彼らの瞳は怒りに燃えている。
憎悪し、嫌悪し、今まさに自分を殺そうと――。


『ロイド!ここはミトスの記憶の中だよ!惑わされないで!』


コレットの声に、ロイドの視界は再び真っ白に。


『どうして邪魔をする!お前とボクと、何が違うんだ!ボクだって世界も姉さまも助けたかった!誰にも迫害されない世界が、欲しかった…!』


すう、と。
ミトスの姿が消えていった。


「コレット!無事か?」

「ロイド!うん。私はだいじょぶ。助けに来てくれて…ありがとう。私、ロイドが来てくれるって信じてた」

「約束したからな。二人で旅に出ようって。…輝石、取れないみたいだな」

「そだね…。でも、だいじょぶだと思うよ。さっきまでの頭の中を侵食されるような感じは、もうしないから。ねえ、みんなは?」


きょろきょろと辺りを見回すコレットに、ロイドは答える。
「仲間達は、罠に嵌まって散り散りになってしまった」と。

わたわたと忙しなく動き回る小さな右手を掬い取り、二人は駆け出した。


「行こう、コレット!」


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