「…つまりこの俺に、契約の指輪を作れってんだな?地上暮らしで技術を失いつつある、この俺によ」
「もうあなたしかいないのだ。技術を手にしていたドワーフは動けない」
「頼むよ親父!」
ロイドが両手を合わせる隣で、クラトスが机の上に視線をやる。
クレア達一行は先ほどから気になってはいたそれは、どうやら彼が準備したものらしい。
「こいつは研磨用のアダマンタイトだな。ん?この木は何だ?」
「神木…ですか?」
「火を起こすのには、これでなくてはならないのだ」
「もしかして、これを準備する為にあんたは…テセアラを…」
メルトキオでクラトスと出会ったあの時、彼は神木の在り処をプレセアに尋ねていた。
ロイドの言葉に否定の意を示さないところを見ると、肯定ととっていいのだろう。
あの謎の行動はもしや、この為に…?
「そうかい。ここまで準備してあるのかい。こうまでされたら、やらない訳にはいかねぇな。ま、可愛い息子の為に力を合わせるのも悪くねぇよ。同じ…父親としてな」
ダイクは笑った。
やはりロイドの父親なのだと思わせる明るい笑顔に、クレアは微笑む。
小さくして父親を亡くしたクレアにとって、頼りになる父親が二人もいるロイドが羨ましかった。
「ドワーフの誓い、第1番。平和な世界が生まれるようにみんなで努力しよう…か。よし、やってやろう」
第58話 父親「これで、エターナルソードを扱えるんだな」
手の平に収まる小さな指輪を眺め、ロイドは呟いた。
クラトスが必要な材料をかき集め、ダイクがそれを精製して生まれた指輪。父親達からの贈り物に思わず頬を緩ませた時、クラトスががくりと膝を折った。
「と、父さ……っ」
しかしやはりそこで、ロイドは言葉を飲み込む。
皆の前だからなのか、はたまた素直になれないだけなのか。
駆け寄りたくなる衝動を無理矢理押さえ込み、ロイドは治癒術を唱えるクレアとクラトスの姿を見遣った。
「…ロイド」
突如クラトスに名前を呼ばれ、ロイドの背筋が思わず伸びる。
そんな彼に、クラトスは優しく微笑みかけた。
たまたま近くにいたから、そんな風に見えただけなのかもしれない。
けれどクレアの脳裏には、あの時の綺麗な笑顔が蘇った。
「お前は本当に強くなったな。天使化していた私に、ここまでの深手を負わせるとは」
「クラトス…」
「…これを持っていけ。そして、ミトスを…止めてくれ。私は…もう動けないようだ」
クラトスから差し出された剣を受け取り、ロイドは静かに頷いた。
静かに、けれど、確固たる強い意志を宿して。
「ロイド」
今度はダイクが、ロイドの名前を呼んだ。
「こいつを持っていけ。昔約束した、お前へのプレゼントだ。一人前の男になったお前になら、ダイクさま生涯最高の剣を預けられる」
ロイドの大きな鳶色が、僅かに揺れた。
クラトスから手渡された剣は、揺らめく炎を彷彿させる赤色――フランヴェルジュ。
一方ダイクに手渡された剣は、たゆたう水を彷彿させる青色――ヴォーパルソード。
「すげぇ…!この二本の剣があれば、俺はもっと強くなれる!」
この世界を、仲間を、大切な人を守る為に強くなりたい。
想いが込められた二本の剣を天高く掲げ、ロイドは照れ臭そうに笑った。
「ありがとう。親父。それに…クラトス」
「何もかもお前に押し付けてしまったな。…すまない」
「俺の父親は立派なんだぜ。息子の為に失われた技術を使って指輪を作ってくれたし、息子を命懸けで守って…陰ながら助けてくれたりしたんだ」
「…おう。おめぇはいい親をもったなぁ」
「ああ!」
ダイクの言葉に、ロイドは力強く答えた。
家族を褒められることって、褒めることって、何だか少しこそばゆい。
だけど、あたたかい気持ちになれるんだ。
ダイクの教育が、クラトスの想いがあったから、今のロイドがある。
「じゃあ行ってくるよ!父さん!」
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