「…皆さん!」
兵士の一人が、喜々として声を上げる。
その隣りではニールが顔を曇らせていた。
「ニール、ドア総督は…」
「…いえ、何もおっしゃらないで下さい。貴方方の顔を見れば、ドア様がどうなったのか想像はつきます」
「でもドアさんはこう言ってたよ。ショコラさんを助けて欲しいって」
「…分かりました、総督の遺言の為にも、是非私達をお連れ下さい!」
ニールの調べにより、ドアから受け渡されたカードキーを使用する場所が明らかとなる。
一行は裏口から侵入することに成功し、マグニスの待つ管制室を目指す。
途中、収容された人々を救い出すニール達と別行動を取ることとなった。
「どうかご無事で」
「…ああ!」
前知識として入れておいたニールからの情報のお陰で、ほとんど戦闘することなく、管制室に到着した。
中央には魔科学で作られたのだろう、機械的な椅子が宙に浮いており、クレア達が部屋に入ると、こちらを向いた。
尊大に座ったマグニスが姿を現わす。
「漸く到着か、天から見放された神子と豚共が」
ぱちん、と指を鳴らすと、四方八方の扉から武器を構えたディザイアンが入って来る。
その中には囚われのショコラの姿もあった。
「がははははは!お前達の行動は筒抜けだ。劣悪種供が逃げ出そうとしているのもな」
そう言ってマグニスは、クレア達の後ろに、自身の正面にあるものを差す。
振り返ると、そこには脱出の指示を出しているニール達の姿が映し出されていた。
「投影機…これに私達も映っていたのね」
「ああっ!閉じ込められちゃったよ!」
ジーニアスが言うと、指示に従っていた人々が、目前で閉じられた扉を、必死に開けようとする姿が映る。
そこで映像は途絶えた。
「お前らの行動は、何もかも無意味なんだよ!」
「無意味なんかじゃ…」
その時、マグニスが嫌らしく口角を吊り上げた。
「イセリアでの厄災は、お前の無駄な行動のせいだろうが」
「それは…」
「投影機に映っている連中で、あの時の再現をしてやろうか?」
部屋中に響き渡るよう、マグニスはより一層声を張り上げた。
「お前が殺したあのババア…、マーブルのようにしてやるよ!」
ショコラの肩がびくりと震える。
「マーブル…?マーブルって、まさか…」
「お前の祖母マーブルはロイドに殺されたんだ。それはそれは、無惨な最期だったそうだぜぇ!」
マグニスとディザイアンの笑い声だけが、耳障りなほど管制室に響く。
「う…そ…」
「待ってよ!違うんだ!ロイドは…」
「触らないで!」
近寄って来たジーニアスを容赦なく弾き飛ばす。
「放っておいて!お祖母ちゃんの敵になんて頼らない…私のことは、ドア様が助けて下さるわ!」
「そうか、ドアになぁ…。まぁいい、連れて行け!」
マグニスが言うと、ディザイアンに引き摺られるようにして転送装置に乗り、姿を消した。
ロイドが追い掛けようとするが、道を塞がれ、それは叶わなかった。
敵は多勢だったが、幾度となく死線を潜り抜けて来たクレア達の敵ではない。
各々の武器を構え、流れるようにして敵を倒してゆく。
「秋沙雨!」
ロイドが無数の突きを放ち、最後の一人がその場に崩れ落ちる。
「…ちっ、こうなったらこのマグニス様が直々に相手をしてやるよ!エルフの血を捨てられねぇ愚か者共々、神子を葬り去ってやる」
マグニスが椅子から飛び降り、地面に着地した瞬間、空中から巨斧と鋏の付いた盾が出現する。
「生きて帰れるとは思ってねぇだろうなぁ!?」
逞しい腕で巨斧を軽々と振り回す。
風圧だけで気圧されてしまいそうなほどだ。
クラトスとロイドが二手に分かれ魔神剣を放つ。
その間、他の仲間達はそれぞれの詠唱に入る。
「下らん…獅子戦吼!」
獅子の形をした気が、衝撃波をかき消し、ロイドに直撃する。
空中で何とか体勢を立て直し着地するが、足元に魔方陣が発生する。
「しまっ…」
「イラプション」
溶岩流の火柱が、ロイドの身体を焼き尽くす。
「ナース!」
クレアの治癒術がロイドだけではなく、仲間達全員の身体を見る見るうちに癒してゆく。
「サンダーブレード!」
けんだまの音が鳴り止むと、天から密度の濃いマナの大剣がマグニス目掛けて襲いかかる。
それを辛うじて避けるが、コレットとリフィルが詠唱を終了していた。
「エンジェルフェザー!」
「光よ――フォトン!」
三つの光輪が腹部を掠り蹌踉めいた瞬間、美しい光がマグニスの身体を捕らえ、弾けた。
どう、とその場に倒れ、吐血する。
「何故、劣、悪種、ごときに…!」
「愚かだからだ、マグニスよ。クルシスはコレットを神子として受け入れようとしている」
「何…!?では、俺、は騙され、た、のか…」
憎々しげに呟きながら、マグニスは息絶えた。
「…ここを自爆させます」
「姉さん!そんなことしたら…」
「少なくともこの辺りのディザイアンの勢力は減退するでしょうね。叩くなら徹底的にやるべきです」
傍らで俯いている弟にだけ聞こえるよう言った。
「忘れないでジーニアス。彼らと私達は、違う。…違うのよ」
クレアが見ても訳が分からないような機械の操作を、リフィルは無駄なく進めてゆく。
管制室を後にした一行は出口に向かう途中、合流したニール達に手短に事情を説明して、急いで人間牧場を後にした。
爆発音が響き、地面が揺れる。
魔科学を駆使した建物ではあるが、脆くも人間牧場は崩れ落ちていった。
「あの…ショコラは?」
漸く牧場の崩壊が落ち着いた頃、ニールがきょろきょろと辺りを見回す。
「恐らく別の場所へ連れ去られたのだと思うわ」
「そうですか…」
ニールの顔が僅かに曇ると、クラトスが言った。
「無事なら助けることが出来る」
「…そうですね、その通りです」
ジーニアスが自身のエクスフィアに目を落としていると、あることに気が付く。
「…そうだ!牧場に収容されていた人達には、エクスフィアっていうのが埋め込まれているんだけど…」
収容されていた人々には聞こえないよう、ニールの元へ行き、説明する。
「イセリアのダイクってドワーフに、俺の名前で手紙を送ってくれよ。きっと、そいつを取り外す相談に乗ってくれる」
「分かりました。では、私達はこの方々と共にパルマコスタへ戻ります。皆様も道中、お気をつけ下さい。…この度は、ありがとうございました」
ニールと兵士は、一行へ深々と頭を下げる。
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