大切な仲間が、大好きな友達が道に迷っている。
そんな時、私に出来ることは何だろう。
祈る?励ます?
背中を、押す?
同じ苦しみを経験したことのない私には想像するしか出来ないけれど。
彼の立場になって、お世辞でも何でもなく、私の想いを正直に伝えよう。
クレアは、部屋の扉をノックした。
第56話 伝心「ごめんね、こんな夜更けに」
「それはいいけど…どうしたんだ?」
隣を向けば、自身の双眸を真っ直ぐ見つめる大きな栗色。
かち合った瞳に迷いは見えない。
クレアは、ロイドの両手を掬い取った。
「私…ロイドのことが好き」
「…へ!?」
「コレットも好き。ゼロスも好き。ジーニアスもリフィル先生もしいなもプレセアもリーガルさんも…ミトスやユアンや…クラトスさんも好き。みんな、私にとって掛け替えのない人達だから」
「クレア…」
「ダイクおじさまやイセリアのみんな…シルヴァラントの人達やテセアラの人達。誰一人として、欠けて欲しくない」
――私は、みんなと一緒に‘生きていたい’
そう思うのは、ただのわがままなのだろう。
だけどこれが、嘘偽りのない私の気持ち。
クレアは、にこりと微笑んだ。
「だけどそれは、クラトスさんと戦えってことじゃなくて…」
「…うん」
「…ごめんね、矛盾…してるよね」
この世界と、みんなと一緒に生きていたい。
けれどその為には、クラトスさんを倒さなくちゃいけなくて。
クレアの瞳に溜まる透明な雫を見て、ロイドはゆるゆると首を振った。
「…ありがとな、クレア。俺は、たくさんの人の命を背負ってる。その人達の為にも、俺は…過去のクラトスを倒す」
「……うん」
刹那の沈黙の後、二人はベンチに腰掛け、夜空を仰いだ。
そこには辺り一面、満天の星が輝いている。
眩い光を放つ大きなものや、ちかちかと点滅する小さなもの。
緑豊かで星が綺麗で、空気が澄んでいる。
どこか故郷を彷彿させるそれに思いを馳せて、クレアはロイドを向いた。
「私、みんなに出会えて本当にしあわせだよ。私が『私』としてこの世界に生きていられることが、嬉しくて堪らない」
「…俺も。イセリアを飛び出したばかりのあの頃は、こんな風になるなんて思ってもみなかった」
「新しい世界で初めての仲間が出来て。友達が出来て、色んなことを知って…。ねえ、ロイドは…」
「…おい、いい加減出て来たらどうなんだ」
「?」
クレアが首を傾げると、茂みの奥からぼんやりと人影が浮かび上がる。
月明かりに照らされて妖しくきらめくそれは、鮮やかな真紅だった。
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