「ねぇ、二兎追う者は一兎も得ずって言うよね」

「にと…?ニトって奴を追いかけようとして、イットって奴が燃えるってことか?」


いつも通りの答えに、ジーニアスは思わず肩を落とした。
ロイドは、どうしてこうも器用に間違えることが出来るのだろうか。


「いっそ天才なんじゃないかって思うよ」

「照れるなぁ…」

「誉めてないから」


ぴしゃりと言い放てば、ロイドは掻いていた頭から手を離す。
ジーニアスを纏う雰囲気が変わったことに、彼は気付いた。


「要するに、あれもこれもって欲張ると失敗するってこと。…ボクは、ロイドともミトスとも仲良くしていたかった。それで結局ミトスを…。初めての同族の友達を…」

「ごめんな、ジーニアス。お前の友達を、俺…」

「そんなことを言って欲しいんじゃないよ」


ジーニアスは勢いよく顔を上げ、ポケットから何かを取り出す。
眩い光に包まれ七色に輝くそれは、ミトスの命を宿す小さな石だった。


「これ…まさかミトスの《クルシスの輝石》か?」

「…ごめん。《救いの塔》で拾ったんだけど、壊すことが出来なくて持ってきちゃった。せめて、再生された世界を見せてあげたいって思って…」

「…そうか」

「ロイドは後悔しないで。それだけだよ」


失ったものは返ってこない。
ましてやそれが掛け替えのない‘命’ならば、尚更のこと。

‘命’に代わるものなどありはしないのだから。


「こうしていると嘘みたいです。このまま放置しておいたら、世界が滅びるなんて…」


耳を澄まし、プレセアは言った。
確かにここは彼女の言った通りのどかで、自然が溢れていて、滅びるなんて言葉は相応しくない。

ロイドはゆっくり、景色を眺めた。


「そうだな。《大いなる実り》が目覚めなければ、この世界は…」

「私達のしていることは、自然の摂理に反しているのかも知れません」

「え?」

「人は滅びる道を選択した。私達がやろうとしていることは、世界の寿命をいたずらに延ばそうとしているだけなのかも…」


世界は、滅びる運命にあるのだ。
けれどクレア達一行は、それを捩じ曲げてでも世界の寿命を延ばそうとしている。

‘生きたい’と、そう思うから。


「世界は滅びた方がいいって言うのか?」

「…分かりません。何がいいのかは多分誰にも分からない。だから、ロイドさんも悩んでいるんですよね」

「プレセア…」


‘生きたい’と思うのは人の欲望かもしれない。

自然や大地、世界からすれば、人なんてちっぽけな存在でしかないから。
でも、例え欲望だとしてもそう考える‘心’があるのはしあわせなこと。

ミトスが目指した世界は、それすら存在しない。


「正しいことなんて何一つないのかもしれない。だから、ロイドさんが最後に信じるものを選んでください」


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