「みんな、ミトスを止めて!私の中にいたマーテルが私に呼びかけるの。マーテルは…ミトスを止めて欲しいのよ!」

「ふざけるな。姉さまがそんなこと言う訳ないだろう。この出来損ない!」

「言ってたもん!これ以上、人やエルフを苦しめないでって…泣いてたもの!」


コレットの言葉もマーテルの呼びかけも、ミトスに届くことはなかった。
クレア達と楽しく笑い合っていた彼は本物ではなく、演技だったのだろうか。

クレアは、彼の背中を見つめる。


「ロイド、分かってんだろーな。ここで《大いなる実り》を失ったら、レネゲードの期待を裏切るんだぜ」

「そうサ。あたし達ミズホの民も黙っちゃいないよ」

「あれがなければ、大樹の発芽もなくなるわ」

「マナがないと、大地も死んでしまいます」

「お前が目指すのは世界の統合。ならば…」


仲間達の言葉にロイドは力強く頷いた。
鳶色の瞳が真っ直ぐ見据えるのは、金髪の少年。

ここで彼を止めなければ、世界は滅ぶ。


「全力でミトスを止める!…いくぞ!」




第55話




彼は、誰よりも真っ直ぐな瞳を持っていた。
どんなに差別されてもめげることなく、皆が共存する世界を求めた。

けれどある事件を境に、彼は変貌する。
欲にまみれた人間が、分かり合おうとしないエルフが、この世界の何もかもが、嫌になったのだ。

世界を救った英雄は、今…。


「そんな…。ボクが、負ける訳がない…。姉さまと…還るんだから…」


一行の目前で、光に包まれるユグドラシル。
勝負の行方は、クレア達一行の勝利に終わった。
天使の姿が掻き消えると、彼が装着していた《クルシスの輝石》だけがその場に残る。

仲間達に見つからないよう、ジーニアスはそれをポケットにしまった。


「…終わった」


台座に安置された《大いなる実り》を見て、ロイドが呟く。
これでよかったのだと自身に言い聞かせても、最後まで分かり合えないこの結末が悔しかった。

クレアが胸元のエクスフィアを握った、その時。


「それはどうかな」


一行の前に、クラトスが姿を現した。
クレア達は慌てて武器を構え直すが、どうやら彼にその気はないらしい。


「まだ世界は引き裂かれたまま。大樹も発芽していない。何が終わったのだ?」

「丁度いい。あんたに聞きたかった。あんたはミトスの何に共感したんだ?どうしてオリジンの封印に協力したんだ?」

「ミトスは…私の剣の弟子であり、私の掛け替えのない仲間だった。それで…十分ではないか?」

「仲間だったら、そいつのしていることがどんなひどいことでも許すっていうのか!」


もしもクラトスがミトスの暴走を止めていたら、彼は今と違う道を歩んでいたかもしれない。
世界も、今とは違う運命をたどっていたかもしれない。

道に迷ったら、進むべき道を指し示す。

ロイドは仲間が道を間違えたなら、一緒になって迷ってくれる。
そして最後はいつだって、あたたかい光の射す出口に向かうんだ。


「これ以上話すことはない。オリジンの封印を解きたければ、私を倒すがいい」

「クラトス!待て!」

「…オリジンの封印の前で待つ」


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