突如、壁が崩れ始めた。
大きな音を轟かせて落下するそれは、一行の頭上に降り注ぐ。

ミトスが力を解放したことで、安定を失っているようにも見えた。


「大丈夫か、ロイド!」


一つの声が聞こえた。
そちらを向けば、仲間が――ゼロスが居た。

ゼロスは高台から飛び降り、コレットの元へと駆け寄る。
彼女の首にペンダントをかけて、彼は笑った。


「どういうつもりだ!《マナの神子》から解放して欲しいんだろう?」

「悪ぃな。…それ、もういいわ。お前らを倒しちまえば、そんなこと関係なくなるしな」

「ゼロス!やっぱり戻ってきてくれるのか」

「悪かったな。こうでもしないと、これが手に入らなかったんだ。…ほらよ」


ロイドの手の平に収まったのは、七色に光り輝く小さな石だった。


「そいつをドワーフの技術で精製するんだ。人間でも、エターナルソードを使えるようになるらしいぜ!」

「お前、まさか…これを手に入れる為に、わざと…」


ロイドの大きな鳶色が、僅かに揺れる。


「そうサ。そのアホ神子が、あたし達をトラップ地獄から助け出してくれたんだよ」

「でも、騙してたのはホントだ。今まで散々足を引っ張ってきたからな。これぐらいはやらねーと、許してもらえねーだろ」

「許して欲しかったら、さっさと一緒に戦え!」


誰かに信じてもらうことが、こんなにも心地好いものだとは。
誰かに必要としてもらうことが、こんなにも嬉しいものだとは。

ロイドは笑った。
その惜し気もなく晒された少年らしい無邪気な笑みに、ゼロスは応える。


「了解〜!」


世界中の人に嫌われても構わない。否定されても構わない。
自分を理解してくれる仲間が、必要としてくれる人が、愛してくれる人がいるから。

それだけで、世界は綺麗に色付くんだ。


「姉さまを返せ!」

「さようなら、ミトス。私の最後のお願いです。この歪んだ世界を元に戻して」

「嫌だ、姉さま!…行かないで!」


クルシスの指導者としてじゃない。
世界を救った英雄としてじゃない。
ミトスは一人の「弟」として、姉との別れを嫌がっている。

マーテルにすがる彼の姿は、ひどく幼く見えた。


「こんなことになるのなら……エルフはデリス・カーラーンから離れるべきではなかったのかもしれない。そうしたら、私達のような狭間の者は、生まれ落ちなかったのに…」


《クルシスの輝石》が輝くと、コレットの体から光が放たれる。
ちかちかと弱々しく瞬くそれは、再び若草色の蕾へと吸収された。

倒れかけたコレットの体を、ゼロスが支える。


「そうか。そうだったんだ。あは…はははは…。姉さまはこんな薄汚い大地を捨てて、デリス・カーラーンへ戻りたかったんだ。そうだよね。あの星は、エルフの血を引く者全ての故郷だものね」

「ミトス…?」

「分かったよ姉さま。こんな薄汚い連中は放っておいて、二人で帰ろう。デリス・カーラーンへ」














to be continued...

(11.04.07.)


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