カプセル状の容器に閉じ込められているコレットの胸元に、ロイドのペンダントは装着されていなかった。
《クルシスの輝石》の働きを抑制する《要の紋》が邪魔だったのだろう。

そしてコレットの頭上。ユグドラシルが見上げる先には、若草色の大きな蕾が安置されていた。
その中で眠る女性から放たれる柔らかい光が、機械を通じてコレットへと注がれてゆく。


「いよいよだよ姉さま。この体は、姉さまの固有マナに一番近いんだ。今まで何度も失敗したけど、今度は絶対にうまくいく…」

「マナの充填が終了したようです」

「よし、やれ」

「コレットを返せ!」


ユグドラシルとプロネーマが声のした方を向けば、眩い光の中からロイドとクレアが姿を現した。
決意を滲ませる鳶色と栗色に、彼らは驚きを隠せない。


「ロイド!?それにクレア!きさま達、どうやってこの部屋へ。ここの鍵はクルシス幹部にしか開けられないはずだ」

「そんなことどうだっていいだろ!どの道、お前の身勝手な千年王国の夢はここで潰されるんだ!」

「無駄なことを…」


ロイドに双剣を抜く暇を与えず、クレアに詠唱させる隙を与えず、ユグドラシルは二人に迫った。
手を振りかざす彼の背後に、炎属性の魔術が命中する。

ロイドとクレアが見上げた高台には、けんだまを構えたジーニアスが。
リーガルが、しいなが、リフィルが、プレセアが。
離脱したはずの仲間達が、集っていた。


「二人は、傷付けさせないよ!」

「み…みんなっ!?どうして…無事だったのか!?」


たった一人で天使の大群に立ち向かって、奈落の底へと引きずり込まれて、足場を無くして。
閉じ込められて、迫り来る壁に潰されかけて。

嬉しさと同時に驚きも込み上げてきたロイドの頭は、パンク寸前だった。


「言ったろ。メインイベントまでには間に合ってみせるって」

「私と同じ苦しみを背負いたくなかったのだろう?」

「せっかく新しい世界が出来ようとしているのに、それを見逃す手はないわ」

「まだ…戦えます。戦える限り、あなたの側にいます」

「へへーん、どう?見直した?」


目の前に『仲間がいる』
ロイドには、それだけで充分だった。

それ以上も、それ以下も望まない。

安心しきったロイドの横顔を見て、クレアはにこりと微笑んだ。


「みんな…!一緒に戦おう!」

「やれやれ、雑魚共が。プロネーマ、お前の不始末だ。やれ!」

「は、はい!」


ユグドラシルに促され、プロネーマの手中に杖のような武器が収まった。
仲間達がこちらに向かって走ってくる。

みんながいるから。
一人じゃないから。
もう、怖くはない。

ロイドは双剣を構え、クレアは胸元のエクスフィアに手を翳した。


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