仲間を失って恩師を失って友達を失って。
それでもロイドはひたすらに走った。

がむしゃらに。
けれど、真っ直ぐに。

みんなの思いを背負っているから。
みんなの願いを背負っているから。

ロイドは、走る。


(何が…「誰も犠牲にしたくない」だ!)


仲間達に守られてロイドはここまでやって来た。

リーガルが助けてくれたから。
しいながかばってくれたから。
リフィルが叱ってくれたから。
プレセアが支えてくれたから。
ジーニアスが背中を押してくれたから。


(みんな…ごめんな)


転送装置に跨がったその先には、一本の細長い通路があった。
試しに一歩を踏み出すと、かたかたと揺れ動いて欠けてゆく足場。

瞼を閉じて、息を大きく吸い込んだ。
瞼の奥から現れた鳶色に迷いはない。

ロイドは、駆け出した。




第54話




「…!」


左右から飛び交う矢が命中することはなかったが、最後の最後に隠されていた正面からの攻撃は、避けられなかった。
けれどロイドの体に痛みはなく、むしろ優しいあたたかさを感じる。

大きな鳶色が瞬いた。


「え…」


ロイドの視界に映ったのは、大切な仲間。
奈落の底に吸い込まれたはずの栗色が、自身を抱きしめてくれていた。


「クレア…?」

「…うん。心配かけてごめんね、ロイド」


あの時ロイドに助けてもらった命で、今度は私がロイドを助けるの。
コレットを元に戻す方法は必ずあるって励ましてくれた、あの時みたく。

何度も何度もロイドの強さに救われて。
その度に憧れを抱いた。


「お前、怪我は…」

「だいじょぶ。私、どこも痛くないよ」


にこりと微笑むクレア。

その笑顔を見るや否や、不思議と胸が軽くなった。
まるで治癒術を唱えてもらったような、優しくてあたたかい何かがロイドの体を包む。

それと同時に、顔に熱が集まるのを感じた。


「…ロイド?」

「…あ。いや、その…」


首を傾げるクレアの様子を見る以上、彼女は分かっていないのだろう。

――体勢がまずい。

そう申し出たところで、栗色の彼女は分かってくれるだろうか。
否、きっとより一層首を傾げるだけだ。

何とかこの体勢から脱出しなくては。
焦るロイドの願いが通じたのか、クレアは静かに腕を離した。


「クレア…?」


栗色の瞳が捉えたのは、壁に突き刺さっている一本の剣。
正しくは「突き刺さっている」ではなく「突き刺さった」だ。

自由になった体を起こし目を凝らせば、すう、と壁が消滅した。

ロイドとクレアは、静かに頷きあう。
仲間達の願いを背負って、二人は扉を潜った。


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