「中からロックされてる…。ダメだ、開かない」

「ロイドさん、あれを見て下さい」


焦るロイドを宥めるかのように、プレセアは小さな抜け穴を指差した。
通気孔のようなものだろうか。

ロイドの器用さをもってしても開かないとなれば、中からロックがかかっているのかもしれない。


「あそこから、部屋の中に入れるかもしれません。やってみます」

「でも、一人じゃ危険だ」

「大丈夫です。それに、私じゃないとあの中に入れませんから」


プレセアが言えば、ロイドは渋々承知する。

彼はいつだって優しい。
他人の私を、心から気にかけてくれるのだから。

けれど『他人』だなんて言ったらきっと、ロイドは怒るだろう。
「大切な仲間だ」と、にっこり笑って応えてくれるに違いない。

柵を握る両手に力を込めれば、壊れかけていたそれは、いとも容易く外れた。


(あれ…ですね)


扉の開閉を司る機械に駆け寄り操作をすれば、ロックの外れる軽やかな音が耳に届いた。
それと同時に、何かが擦れる小さな音。

見れば、奥へと続く通路の天井が動き出したではないか。


「だめ!」


プレセアは走った。
そんな彼女の足に、木の根が絡み付く。
勢いのまま転倒してしまうと、背中の斧が吹き飛んだ。

その間にも、天井と床との距離は近付いてゆく。


「くっ…お願い、届いて!」


捕縛されてゆく体で斧の元へとにじり寄り、掴んだそれを支えにする。
そのタイミングを待ち構えていたかのように、うごめく根がプレセアの体を引っ張った。

開いた扉の先から、ロイド達が現れる。


「プレセア!」

「来ちゃだめ!来ちゃ…ダメです。早く行ってください」

「出来ないよ!俺は、俺は…」

「ロイドさんは、優しい人です。でも、優しさに惑わされて判断を誤るなら…ただの甘い人です」


支えになっている斧が、がたがたと震え出した。
あれだけの重量を細い柄が支えているのだ。

限界は既に見えている。


「あなたには…やるべきことがあるはずです。それを忘れないでください」


コレットさんを、クレアさんを助けること。
ロイドさんの優しさを必要としている人達…。私のように、孤独の中にいる人を救って欲しい。

独りは、寂しいから。


「…行ってください。でないと私、あなたのことを軽蔑…します。私なら、大丈夫です。だから、早く…」

「ごめん、プレセア!」


斧が支える僅かな隙間目掛けてロイド達は走る。
転送装置のあるそこにたどり着けば、彼女の小さな体は今にも飲み込まれようとしていた。

届かないと分かっていても、プレセアは自身の思いをロイドに託す。


「ロイドさん…どんなことがあっても、負けちゃだめです。逃げないで、戦ってください。あなたなら…出来るはずです」


支えていた斧の柄が悲鳴を上げた。
ロイドとプレセアの間に大きな天井が落下する。

プレセアの姿は、完全に見えなくなった。


「プレセア、約束するよ。必ずコレットとクレアを助けてみせる。誰もが、自分らしく生きられる世界を作ってみせる…」


ロイドは、走った。


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