大切な人を守りたい。
そう心に誓ったはずなのに、自分はみんなに守られてばかりいる。
だけど託してくれた思いが、願いがあるなら。
何が何でも叶えなくちゃいけない。
だから必ず、コレット達を助けるんだ…!
「くそっ、開けよ!」
重厚な扉が、先を急ぐロイド達の前に立ち塞がる。
押しても引いてもびくともしないそれを見たリフィルは、部屋の中央に設置された機械の元へと走った。
「どうやら、ここから操作するみたいね」
「先生、早く!」
「急かさないで…。これね」
リフィルが機械のボタンを操作すると、分厚い扉が音を立てて開いた。
顔を輝かせるロイド達だったが、開いた扉の奥には別の扉がそびえ立っている。
それと同時に、大きな揺れが起こった。
「きゃっ!」
「先生!」
「…!」
何かに気付いたリフィルが慌てて場所を移動する。と、確かに存在していたはずの足場が崩れた。
「先生!大丈夫か!?」
「…何でもありません。ちょっとした操作ミスです。さ、次の扉を開けるわよ」
開いた扉の奥には、更に重厚な扉があった。
再び揺れが起こると、やはりリフィルの周囲にある足場が欠けてゆく。
リフィルの額に、汗が滲んだ。
「先生、本当に操作ミスなのか!?まさか…」
「余計なことを考えている場合?次、開けるわよ」
「先生!やっぱり…」
一枚の扉を開ける度に、リフィルの足場が崩れてゆく。
今度の扉の前にはモンスターすら現れた。
これは操作ミスなんかではない。手の込んだ侵入者用の罠だ。
「ロイド、今はコレット達を助けることだけを考えていなさい。余計なことに気を取られないで!」
「くっ…!」
ロイド達は、敵に向かって走った。
相手が二匹なのに対してこちらは三人。
一刻も早く決着をつけようと、ロイド達は各々の武器を振るう。
開いた扉の先には転送装置が見えた。
後はそれに跨がるだけだと急いでリフィルの元へ走れば、彼女の四方を取り囲む足場すべてが欠落していた。
それだけではない。部屋全体が揺れている。
「ロイド、この部屋はもうすぐ崩れ落ちるわ。早く行きなさい」
「嫌だよ!先生を置いて行ける訳ないじゃないか!俺はもう、誰にも犠牲になんてなって欲しくないんだよ!」
「犠牲?いつ誰が犠牲になんてなったのかしら?私はあなたの理想を信じた」
私達狭間の者でも、あるがままに受け入れてくれる。
そんな夢のような世界を作るという、あなたの理想を信じた。
それは私にとっての…いえ、私達ハーフエルフにとっての希望。
「その実現の為に、私はここまで来たんですもの。悔いはないわ」
「世界を救うことが出来たって、先生が死んだら何にもならないだろ!」
「あなたの理想が息づく世界で、私の心は生き続けるわ。でもあなたの理想が潰えたら、それは私の希望が死ぬ時。希望を失って生き続けるのは、死ぬより辛いことではなくて?」
「そんなの…分からないよ!」
ロイドの瞳に涙が滲む。
いつだってリフィルは、進むべき道を教えてくれた。
仲間として、教師として指導してもらっていた。
厳しく、時に…優しく。
「分からないのなら、人が生きるということがどういうことなのか、これからの人生で学び取りなさい。それがあなたの先生としての、最後の教えです。…さあ、もう行きなさい。先生の言うことは聞くものよ」
「先生…俺、忘れないよ、先生のこと!」
涙は流さなかった。
ロイド達は、転送装置へと向かって走る。
ただ、ひたすらに。
「後は頼んだわよ。私の、可愛い生徒…」
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