総督府に到着するがドアの姿はなかった。
すると、コレットが地下から声が聞こえると言い、一行は足音を立てないよう、階段を下る。
地下へと続く階段に灯りはなく、壁の感触を確かめながら慎重に進む。
歩いて行く内に、段々と話し声が聞こえるようになってきた。
声は二つで、一つはドアのものだった。
「これが精一杯だ!通行税に住民税、マーテル教会からの献金。…これ以上どこからも搾り取れん!」
「まあ良かろう。次の献金次第では、マグニス様も悪魔の種子を取り除いて下さるだろうよ」
暫くの間、沈黙が続いたことを考えると、もう一人の声の主は去ったらしい。
恐らくディザイアンだろう。
「お父様…」
沈黙を破ったのは娘、キリアの声だった。
「もう少しでクララは元の姿に戻れるのだ。旅業の料金を底上げして…」
背後で足音がして振り向くと、牧場に向かったはずのクレア達。
「そうか…。ニールが裏切ったのか!」
「裏切ったのはあんたの方だろう!街の人達は皆、あんたの言葉を信じて待ってるんだぞ…!」
「知ったことか。所詮ディザイアンの支配からは逃れられん」
「何だとっ…!」
今にも掴み掛かりそうなロイドの服の裾を掴み、コレットが小さく首を横に振る。
「その薬っていうの、私達で取って来てあげよう?そしたら総督だって、もうディザイアンの味方にならなくてもいいんだから」
「…私を、許すというのか」
ドアを真っ直ぐ見据え、コレットは言った。
「貴方を許すのは、私達ではなくて街の人です。でも、マーテル様はきっと貴方を許してくれます。いつでも貴方の中にいて、貴方の再生を待っていて下さるのだから…」
「私の中に…」
ドアが自身の左胸に手を添え、瞼を閉じる。
「馬鹿馬鹿しい!」
何かがドアの腹部に貫通し、鮮血が飛び散る。
その声を上げたのは、後ろで話を聞いていたキリアだった。
「お父さんでしょ!どうしてこんな…」
「ふざけるな。私はディザイアンを統べる五聖刃が長、プロネーマ様の忠実なる僕」
キリアの身体が見る見るうちに変化してゆく。
小柄だった背が倍以上に伸び、鋭い爪を備えた紫色の魔物へと変貌した。
ツインテールの髪は捩じれて、螺旋を描く角となった。
「娘が亡くなったことにも気付かず、ありもしない薬を求めるなどと…愚かな父親だ!あははははは!」
そう言ってドアの頭を踏み付け、ぎり、と力を込める。
「止めろっ!」
ロイドが双剣を抜き、切り掛かる。
その後ろでは皆が武器を構えていた。
ロイドの攻撃に因って後退した隙にクレアとリフィルがドアの身体を支え、壁に凭れさせてやる。
リフィルが治癒術を施そうとしたその時、キリアの冷たい声が響く。
「…アシッドレイン」
黒い血のような雨が降り注ぐと、瞬く間に身体能力が低下してゆく。
「フィールドバリアー!」
クレアの治癒術により、再び力が漲る。
「ブランディス!」
コレットがその場で回転しながら両手のチャクラムで攻撃するが、キリアは軽々とそれを避ける。
その時、ジーニアスの魔術が発動する。
「ライトニング!」
マナの濃い雷が出現し、キリアの身体を感電させる。
「衝破――」
「――十文字!」
ロイドとクラトスが対角線上から、交差するように勢いのある突きを放ち、キリアの身体に二本の剣が貫通する。
「ぐっ…」
二人が剣を引き抜くと、キリアはその場に俯せに倒れ込む。
「馬鹿な…ならばせめて…!」
辛うじて動く右手のみを使い、引き摺るようにして奥へと進み、被せられていた布を引き千切る。
そこには鉄格子があり、中で何かが蠢いていた。
「お前達に…死を!」
牢の鍵を壊し、キリアは息絶え灰燼と化した。
扉が開き、姿を現す。
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