暗い。
苦しい。
寒い。
寂しい。
怖い。

暗闇へと、堕ちてゆく。

…あれ?

眩しい。
優しい。

――あたたかい。

まるで、誰かに抱きしめられているような。
そんな感じがする。
優しくて柔らかくて、ほんの少しだけ不器用で。

胸を締め付けられるような痛みはなくなった。
身体中に散っていた痣が少しずつ消えてゆく。
全部ではないけれど、薄れてゆく小さな花片。

きらきらと光り輝くペンダントに共鳴したのか、クレアの胸元のエクスフィアが強く瞬く。

これは、誰の温もり…?




第53話




――鐘が、鳴り響いた。


「な、何だ!?」


ロイド達の頭上から聞こえるそれは、鳴り止むことを知らないようだ。
天高く飾られていた人形達が、澄んだ鐘の音で目を覚ます。


(あれは…)


可愛らしい衣装に身を包んだ少女人形。
しかしそれは、武器を構えて翼を広げ一行目掛けて急降下してくる。

人形。ではなく、殺戮のみを行う天使だ。

それに気付いた一行が各々の武器を構え、天使達と剣を交える。


「――エアスラスト!」


鋭い風の刃が純白の翼を切り裂き、天使達の体が地面へとたたき付けられた。
しかし彼女らは武器を構え、怯むことなくロイド達に向かう。

鳴り止まない鐘の音が、次々と天使達を覚醒させていった。


「くそっ、これじゃきりがねぇ!」

「今のうちに奥の通路まで走れ!」


リフィルが発動させた光属性の上級魔術『レイ』のお陰で、僅かながら隙が生じる。
リーガルの言葉に素直に従ったロイド達一行。

最後尾を走るロイドが通路にたどり着くや否や、リーガルは足を一旋させた。


(…死ぬなよ)


背後で聞こえる瓦礫の音。
後ろを振り返れば、ロイド達とリーガルの間には大きな柱が崩れていた。


「ここは引き受けた。早く行け!」

「何言ってんだよ!そんなこと出来る訳ないだろ!」

「分かっているはずだ。今は一刻を争う。コレットとクレアを救えるのは、お前しかいない!」

「分かってるよ!でも、仲間を犠牲にして先に行くなんて…」


ロイドは目の前の柱を殴りつけた。
隙間から覗くのは、リーガルの背中とそれに迫る天使の大群。

突然の出来事に、仲間達は動くことが出来ない。
そんな彼らを諭すかのように、リーガルは声を張り上げた。


「それは違う。私は…私はかつて、大切な人を守ることが出来なかった」


脳裏に蘇るのは、アリシアの笑顔。
いつだって彼女は笑っていた。優しくて朗らかで、楽しそうに笑う姿がとても愛おしかった。

最期を迎えるあの時すら、彼女は安らかに微笑んでいて…。


「だから、今度こそ守りたい。大切な仲間を」

「リーガル…」

「二人を守ってやってくれ」


ロイドは、リーガルに背を向けた。
マーテルの器として命を狙われているコレット、奈落の底に消えてしまったクレアを助ける為。

転送装置へ向かう直前、ロイドは小さく呟いた。


「リーガル、死ぬなよ。俺は、あんたと同じ苦しみを背負うのは嫌だからな」


大切な仲間が、自分のせいで傷付く。
自分のせいで大切な人が命を落とす。
それは…嫌だから。

みんなが仲良く一緒に暮らせる世界なんて幻想だと、そう言われるかもしれない。
だけどお互いが歩み寄れば、少しずつでも変化が訪れるはずだ。

人の‘心’は、変わることが出来るから。


「…難しいことを言う」


リーガルは、微かに笑みを浮かべる。

瞳を閉じて大切な人を想えば、やはり彼女は笑っていた。
心から笑える人は強いのだ。と、どこかで耳にしたことがある気がする。

アリシアもコレットもクレアもロイドも、些細なことでよく笑っていた。


「すまん、アリシア。お前のところに行くのはまだまだ先になりそうだ…」


頭上には、夥しい数の天使が羽ばたいている。
数百、否、数千に及ぶのではなかろうか。

リーガルが走れば、天使達も同様に動き出す。


「ここから先は通さん!!」


咆哮したリーガルの姿は、天使の羽根に紛れ見えなくなった。


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