「ばっかじゃね〜の。…それよりそろそろ行きましょうよ、プロネーマさま♪」
「…っ、行かせねぇ!」
勢いに任せて飛び出したロイドに制止をかけたのは、剣を抜いたゼロスだった。
いつもはクレア達一行に向けられるはずのないそれが、ロイドの双剣と対立している。
苦しそうなロイドの、否、一行の表情を見て、彼は笑った。
「護衛も契約のうちなんでね…。やるからには本気でいこうや」
「…馬鹿野郎…!」
どうして。
どうして、ゼロスと戦わなくちゃいけないの?
(痛いよ…)
ゼロスの短剣が、ロイドの頬に傷を作った。
流れるような彼の太刀には迷いがない。
それでもロイドは防戦一方で、彼が攻撃に回る気配は少しもなかった。
仲間達は天使の大群と対立している為に、彼のサポートに回ることが出来ない。
(苦しいよ…!)
自分が?ゼロスが?
誰かの‘心’が…?
サポートをしなければ、ロイドが一方的に傷付いてゆく。仲間達が疲弊してゆく。
だけど、みんなを助ける為にはゼロスを倒さなくちゃいけないなんて。
「!」
ゼロスの剣が、ロイドの双剣を弾いた。
空中で回転するそれは、立ち尽くすクレアの真横に突き刺さる。
がら空きになったロイドの脇腹に、ゼロスは強烈な蹴りを見舞った。
「ぐあっ…!」
「っ、ロイド!」
クレアがロイドの元へ駆け寄ると、ゼロスは剣を収めて転送装置に跨がった。
プロネーマやコレットの姿が段々と薄れゆく中、クレアは、ゼロスの蒼色を見つめる。
逸らすことなく、真っ直ぐに。
『信じてる』と。
それだけを思って。
「ファーストエイド」
「…クレア。あいつは、ゼロスは…本当に…」
「私達に出来るのは信じることだよ、ロイド」
ゼロスからもらったペンダントを握りしめ、クレアは言った。
確かな証拠も何もないけれど‘心’がゼロスを信じているから。
自身を見つめる真っ直ぐな栗色の瞳に、ロイドは静かに頷いた。
「だから今は、みんなの加勢に回らなきゃ」
「…ああ!」
クレアは胸元に手を翳し、ロイドは双剣に向かって走る。
途中それに気付いた天使達が襲い掛かるも、クレアの魔術がそれをさせなかった。
顔には出さないが、仲間達は大分疲弊している。
クレアはペンダントを握りしめ、強く、強く心に願う。
(みんなを助けたい…)
私一人じゃ、みんなを助けられない。
お母さまと…ゼロスの力が必要なの。
お願い、力を貸して…!
「――リザレクション!」
救いの塔一帯という広範囲。皆の足元に純白の魔法陣が出現し、仲間達の傷を癒してゆく。
膨大なマナを必要とする魔術を発動したにも関わらず、クレアの痣が広がることはなかった。
胸元のペンダントが、強く、強く煌めいている。
*prev top next#