純粋でひたむきな君。
もし僕が「大嫌い」って言ったら、君はどんな反応をするのだろう。

僕のこと嫌いになるかな?
離れていっちゃうのかな?

もう二度と「大好きだよ」って、言ってくれなくなっちゃうのかな…?




第52話




「…ここは、俺に任せとけ」

「任せとけって、どうするんだよ」

「こんなこともあろうかと、前にここへ来た時にちょっとした細工をしておいたんだ」


エターナルソードが収められている台座へと走り、ゼロスはコレットを手招きする。
障壁を破るには《神子》の力が必要なのだと、塔に入る直前、ゼロスに聞かされていた。

コレットは、ゼロスの元へと走る。


「ご苦労じゃったな、神子ゼロスよ」


二人を取り囲むようにして、天使が現れた。
クレア達一行の頭上に降り懸かった声の主は、心を失った天使達ではなく、五聖刃が長――プロネーマ。

その葡萄色の唇には、笑みが浮かんでいた。


「さあ、コレットをこちらに…」

「はいよ」

「え?」


コレットが首を傾げたと同時に、ゼロスの拳が彼女の鳩尾へと命中する。
崩れ落ちる体を支え、ゼロスは妖しく微笑んだ。

一体、何が起こっているのだ。


「ゼロス!?」

「あんた、何するんだよ!」

「うるせーなー。寄らば大樹の陰って知らねーのか?お前らのしてることは、無駄なんだよ」


プロネーマの元へ転送されたコレットを一瞥して、ゼロスは続ける。
一行を見つめる彼の視線は、かつてないほどに、冷たかった。


「いいじゃねぇか。コレットちゃんだって、生贄になりたがってただろ」

「ゼロス!裏切るのか!」

「裏切るとは笑止。ゼロスは最初からわらわ達の密偵として、お前達の仲間になったのじゃ。のう、ゼロス?」

「俺さまは、強い者の味方だ。レネゲードとクルシスとお前ら、秤にかけさせてもらったぜ」


クレアの瞳が、どくんと揺れた。

手を翳せば、痛みと痣とが胸に広がる。
クレアのエクスフィアが、黒く濁り始めた。


「レネゲードにまで情報を流してたのか!あんたって奴は…!いい加減だけど、いいところもあるって思ってたのに…!」

「お褒めの言葉、ありがと〜。…結局《マナの神子》から解放してくれるってミトスさまが約束してくれたんで、こっちにつくことにしたわ」


真実?虚偽?
分からない。

言葉はいつだって、嘘をつくことが出来るから。


「《神子》がそんなにも嫌か?仲間を売るほどに」

「ああ嫌だね。その肩書きのお陰でろくな人生じゃなかったんだ。たまんねーよ、ホント。セレスに《神子》を譲れて、清々だぜ」

「…嘘だ!俺はお前を信じるからな。信じていいって言ったのはお前なんだぞ!」


だけど‘心’は、嘘をつくことが出来ない。
どれだけ必死に隠しても、どこかで気付いて欲しいと願っているはず。

人の‘心’は、決して強くはないから。


(…でも)


胸元のエクスフィアが黒みを増してゆく。
しかし、それとは対照的に、クレアの首に下がっている紅色の宝石は、輝きを増していた。


(それでも私は…!)


人の‘心’は弱くて脆い。
容易く傷付き、そして、壊れしまう。

けれど。
信じたいと思うなら、守りたいと思うのなら、大切だと、思うのなら。

‘心’は、どこまでだって強くなる。


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