「皆さん…ありがとうございました」


ディザイアンを退けた一行は、助けた女性、カカオの家にて、娘のショコラ同様、手当てを施していた。

リフィルが治癒術を唱えると、すぐに傷口は塞がったが、カカオの首の傷だけが痛々しく残る。


「本当にありがとう!お母さんまで殺されていたら、私…」

「お母さんまでって…」


ジーニアスの問いにはカカオが答えた。


「主人は義勇兵に参加してディザイアンと戦い、戦死しました。私の母も、牧場に連行されて…」

「うちの店は元々お祖母ちゃんが始めたの」


カカオが俯いてしまうと、ショコラが口を挟む。


「旅行代理店に勤めているのだって、道具屋を維持させる為であって、別にマーテル様を信じてる訳じゃないのよ」


ショコラの言葉に、カカオは、がば、と顔を上げる。
顔からは血の気が引いていた。


「ショコラ!なんてことを!」

「…分かってる、神子さまには感謝してるわ。でも、私達が苦しい時に眠っている神様なんて、あてに出来ないじゃない」


じっと話を聞いていたコレットが、口を開く。


「でもね、やっぱり神様はいると思うよ?…あなたにも、私にも」

「…神子さまがそう言うなら一応、信じてみるわ」


そう言ってショコラは小さく頷いた。

あまり長居するのも親娘の迷惑になるので、一行は時を計って、パルマコスタを後にした。

次に目指すはスピリチュア像が飾られているという、救いの小屋。
ハコネシア峠を目指す際に通った道だけあって、難なく到着することが出来た。

扉に手を掛けたその時。


「神子様!皆様!!」


軍服を纏い、更に甲胄で身を固めた兵士がこちらに向かって来る。


「どうしたんですか?」

「ドア様からの伝令です。再生の旅、しばしお待ち戴きたいと」


首を傾げるロイドを余所に、兵士は続ける。


「…マーテル教会付旅業案内者が連れ去られ、ドア様はこれを機に勢力を上げ、人間牧場を襲撃することになさいました」

「それとこれとどういう関係があるのさ」

「我々の襲撃に呼応して、皆様に誘拐された旅業案内人を救出していただきたいのです」

「誘拐された案内人さんは、どんな方なんですか?」


クレアが尋ねると、兵士は気まずそうに、言った。


「…ショコラという娘です」


* * *



パルマコスタより東、深い森に覆われた中に、人間牧場はあった。

牧場近くの繁みに隠れていた若い男と合流する。
総督府でドアの隣りいた男だった。


「牧場にニール様がいらっしゃいます」


先程の兵士の言葉からするに、この若い男がニールだろう。


「…皆さんには、このままパルマコスタ地方を去って戴きたいのです」

「でも、そんなことをしたらショコラさんが…」


コレットが訴えると、最後尾にいたクラトスが口を入れる。


「やはり…罠か?」


ニールは瞠目した後に、一瞬だけ躊い、頷いた。


「何か、理由がありそうね?」

「申し訳ございません、私の口からは…」

「…そう。私はドア総督の真意を確かめるのが、得策だと思うけれど」


リフィルが皆を見回すと、各々頷く。


(ごめんなさい、ショコラさん…もう少しだけ待ってて下さい…)


コレットは胸の前で手を組み、祈りを捧げる。
それに気付いたクレアがそっと声を掛ける。


「絶対に、ショコラさんを助け出そうね」

「…うん!」


そうして一行は再びパルマコスタへと駆ける。
ディザイアン達の動きを見張ってもらう為、ニールと数人の兵士は牧場に残ってもらった。


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