『死ぬ為の命なんて、あっちゃいけないだと?自分が付けているそのエクスフィアが何なのか、冷静に考えてみるといい』


ユグドラシルの声が、クレア達一行の耳に届く。
空から舞い降りてきた一枚の羽根が、クレアの手の平におさまった。

触れたと同時に、輝く粒子となって散ったそれ。


(…ミトス…)


今はもう姿の見えない友達の名前を、クレアは心の中で呼んでみる。
勿論、返事はなかった。


『私にとってミトスは大切な友達だもん』


嘘じゃない。
エルフでも、人間でも、ハーフエルフでも、ミトスはミトスだから。

ぐるぐる。ぐるぐる。
記憶が、巡る。


「ミトス…どうして、こんなひどいことを…」


リフィルがアルテスタの治療に臨む。
アルテスタは、クレア達一行のようにエクスフィアを装備していない。
彼女の力をもってしても、命を繋ぎ止めるのが精一杯だろう。

一方のタバサは治療することすら出来なかった。
人間でない彼女の傷を治すことが出来るのは、技術者のアルテスタだけ。

四人のレネゲード兵は、既に命を失っている。

クレアは、悔しさに下唇を噛み締めた。


「これで我々の作戦は全て水泡に帰した…」

「オリジンと契約して、エターナルソードを使うつもりだったんだな」

「…そうだ。そして魔導砲であの禍々しい塔を破壊すれば、《大いなる実り》は発芽する。それが我々の計画だった。ディザイアンの内通者からお前の存在を知り、これでクラトスを動かせると…確信した」


クレアはひそかに、ユアンの傷を治療した。
いつかしいなに治癒術を唱えた時と同じように、見た目からは分からないよう。
だが、ユアンの傷はアルテスタやタバサよりも深いはずだ。
後は、彼の回復力に賭けるしかない。


「お前は…ユグドラシルの千年王国に賛同しなかったのか?」

「あの計画は、マーテルの遺言を歪めて捉えた結果だ。彼女が真に望んだものではない。彼女は…『誰もが差別されることのない世界が見たい』…と、そう言っていた」


ユアンは立ち上がり、マントを翻して一行に背を向ける。
すると、倒れていたレネゲード兵の姿が消えた。

彼はまだ、動ける状態ではないはずだ。


「時間がない。ユグドラシルに殺される前にレネゲードを退避させねば」

「待ってくれ!…オリジンの封印は、本当にクラトスにしか解けないのか?」

「奴の体内のマナを解放することで、封印は解ける。命をかけた封印だ」


体内のマナを解放するということは、すべての源である生きる力を失うということ。
だとしたら、クラトスの命を犠牲にしなければ…エターナルソードは手に入らないのだろうか。


「…ロイド。お前にエターナルソードを使うことは出来ないだろう。あれは召喚の力を必要とはしない。ただ、オリジンに認められればよい。しかしたった一つ、お前にはどうにもならぬものがある」


ユグドラシルも、それを言っていた。
彼にあり、ロイドが持っていないものとは一体…


「あれは、ハーフエルフにしか使えぬ。オリジンがミトスの為に創り出した剣なのだからな」


それだけ言うと、ユアンはクレア達一行の前から姿を消した。

魔剣エターナルソード。
ミトスはそれを使い、戦争を引き起こした二つの陣営を、それぞれの世界に閉じ込めた。
世界を再びあるべき姿に戻す為には、エターナルソードが必須だ。

ユアンの言葉が真実ならば、クレア達一行が世界を救うことは…




――不可能だ。


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