胸元のエクスフィアが、熱をもった。
突如として走った痛み。
今まで、こんなことはなかったのに。
「この…!俺の親友を裏切りやがって!」
「ぐっ…!」
怒りのままに、ロイドは刀を振るった。
地を這う衝撃波がミトスに命中する。
更なる攻撃を浴びせようと武器を構えるロイドの間に、二つの影が割り込んだ。
「ロイド、やめて!ダメだよ!二人共、ボクの大切な友達なんだから!」
「…ねえ、ミト」
「っ、触るな!」
肩に触れようと伸ばした右手が力一杯弾かれた。
拒絶、されている。
けれどもミトスは怪我を負っているのだ。治癒術を唱えようとクレアが胸に手を翳した、その時。
「ユグドラシルさま。まだ傷が癒えておらぬのでしょう。ここは、他の天使達にお任せを」
プロネーマが、ミトスの肩を抱く。クレアが触れることを拒んだそこを、彼女はいとも容易く触れていた。
クレアのエクスフィアが、再び熱をもつ。
ミトスはゆっくり立ち上がり、クルシスの指導者ユグドラシルへと姿を変えていた。
「待って…!待ってよミトス!私、私ねっ…!」
コレットの病気を治す方法が見つかったの。
ミトスはそれを知っていたから、私達の背中を押してくれたんだよね?
いつか私のことを「優しい」って言ってくれたけど、本当に優しいのは、ミトスの方だよ…!
ミトスとプロネーマ、倒れていたはずのクラトスまでもが消え、代わりに三人の天使が降臨した。
「…どいて…」
クレアは胸元のエクスフィアに手を翳し、詠唱を始めた。
いつもと違う並々ならぬ雰囲気に、仲間達は思わず彼女を見遣る。
足元で輝く魔法陣が一際強く瞬いた、その時。
「はいっ、そこまで」
ゼロスの手が、クレアの頭の上に乗せられる。
ぱちぱち数回瞬くと、先ほどまでの危なげな何かは消えてなくなった。
詠唱が中断されたことで、足元の魔法陣も同時に掻き消える。
「…あれ?私…」
「ちょーっと頭に血がのぼってたみたいよ」
「そっか…。ごめんね、迷惑かけちゃって」
「いえいえ。んじゃま、いきますか!」
「…うんっ!」
ロイド達に加勢したゼロスは、天使の攻撃を受けながら考えを巡らせる。
クレアのあれは、頭に血がのぼった程度の問題ではない。
彼女のエクスフィアは、あんなにも禍々しい形に歪んでいたのだから。
きっと、よからぬ方向に進みかけたに違いない。
(そういや…)
『エクスフィアは装備者の能力を最大以上に発揮させるもの』いつか聞いたリーガルの言葉が、ゼロスの脳裏に蘇った。
だとしたら、クレアの場合は…。
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