痺れが、抜けない。
治癒術を唱えようにも、集中出来なくては元も子もなかった。

身動きのとれないクレアの瞳が、漆黒の中で揺らめく紅色を見つける。
二人分の体重に、ベッドのスプリングが悲鳴をあげた。


(…ゼロス?)


こんな夜更けに一体どうしたというのだろうか。

しかし彼はロイドやクレアと違い、体の自由がきくようだ。
ならば麻痺状態を治療する『パナシーアボトル』を飲ませてもらおうと、クレアは口を動かした。


「…ゼロス、あの…」


ゼロスは何も応えない。
もしや自分は、幻影でも見ているのだろうか。

それに何だか、いつもと雰囲気が違うような…?


「…ゼロス…?」


もう一度名前を呼んでみると、ようやく彼は応えてくれた。

クレアが安心するや否や、ゼロスは彼女のシャツに手をかけた。抵抗しようと試みるも、未だ体の自由は戻っていない。
丁寧に外されてゆくシャツのボタンを、他人事のようにただ眺めるしかなかった。


「…!」


あらわになった、クレアの白い肌。その胸元で光り輝くのは、母親の形見でもある彼女のエクスフィア。
本来ならば美しいルビー色をしているのだろう。

けれどそれは、血のように赤黒く濁っていた。
《要の紋》の形も、まるで地に根をおろす樹木のように、変形している。


「これは…」

「…ごめん、なさい…」

「…クレアちゃん」

「…で、でもね!我慢してた訳じゃないんだよ?気付いたのは最近で…」


エクスフィアや《要の紋》だけじゃない。
クレアの体中に、赤い痣があった。
花弁のように舞い散るそれは、彼女の命を蝕んでゆく。

イセリア人間牧場でゼロスが感じた違和感は、これだったのだ。


「それにね、痛くないんだ。…ホントだよ?」

「……っ」

「だから…」


ゼロスがクレアの肩口に顔を埋めると、柔らかな紅色が頬をくすぐった。




みんなには、言わないでね。




クレアは、にこりと微笑んだ。


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