「アルテスタさん!」

「何ごとだ?」

「コレットが倒れちまった!治療の道具は揃ってるんだ。すぐにコレットを助けてやってくれ!」


部屋に駆け込んだロイドの背には、ぐったりした様子のコレットが。
顔色は悪く、唇は紫色に変色してしまっている。

一刻を争う事態だと勘付いたアルテスタは、コレットをベッドに寝かせるよう、タバサに命じた。


「《ルーンクレスト》というものを作って欲しいの!書物に出ていた製作方法なら、私が覚えています」

「急ぎまシょう、マスター」

「…分かった。他の者は部屋の外に出ていなさい」




第49話




「コレットのヤツ、大丈夫かな」

「あたし達に出来るだけのことはしたサ」


あとは、リフィルの記憶とアルテスタ達の技術力を信じて待つのみ。
しいなの言う通り、クレア達一行は出来るだけのことはしたのだ。

けれどやっぱり、最後は祈るしか出来ない無力な自分が悔しくて。


「そうそう。ロイドくん。まずはメシでも食って落ち着けよ」

「こんな時に食えるか」

「そんなこと言うなよ〜。ニンジン食う?ジャガイモは?」

「…本当にいらねぇってば」


ロイドの剣幕に、ゼロスは思わず後ずさる。
彼は、この落ち込んだ雰囲気を明るくしようとしてくれている。
それぐらいはロイドも分かっていたし、仲間の誰もが分かっていた。

一種の八つ当たり、かもしれない。


「おいおいおい。ジーニアスといいお前といい、どうしてそんなに暗くなってるんだよ」

「そうだよ。どうしたの、ジーニアス」


いつもなら、会話が弾んでいる頃だというのに。
コレットが生死をさ迷っているこんな時だから、楽しい会話は出来ないかもしれない。

けれどジーニアスは、明らかにミトスから距離をとっていた。


「…ミトス…。あのね?あの…」

「治療は完了シまシた」


意を決して口を開いたその時、タバサを筆頭に治療に臨んでいたアルテスタとリフィルが姿を現した。
額に滲んだ汗が、彼らの疲労を物語っている。


「コレットは!?」

「今は眠っておる。次に目覚めた時には、コレットの体は元通りだ。《クルシスの輝石》も、《要の紋》によって完全に管理されるだろう」

「そう、ですか…!」


よかった…!本当に、よかったあ…!
これでもうコレットは、苦しまずに済むんだ。

ようやく心から安心することが出来たクレアは、安堵のあまり脱力してしまう。
転倒しないよう彼女の身体を支えたのは、同じ表情を浮かべていたロイドだった。

互いの緩みきった頬を見て、二人は堪えきれずに笑いあう。


「よーし!んじゃまー、コレットちゃん全快のお祝いにメシにしようぜ」

「…さっきからメシメシってうるせーなー」

「だってよ〜俺さま達、親友だろ〜。ロイドくんが疲れてるんじゃないかと思ってさ」


それと、と、付け加えるゼロス。


「クレアちゃんは俺さまのモノですから」


クレアの腰を抱き、自身の元へと引き寄せたゼロス。
嬉しいやら恥ずかしいやらで、クレアは頬を赤く染めた。

そんな彼らを見て、ミトスが微笑む。


「みんな、仲がいいね」

「そ〜でしょ〜」

「ジーニアスも、疲れてるの?」


コレットが助かったというのに、未だ暗い表情のジーニアス。
ゆっくりと顔を上げ、ミトスの双眸を捉えた。

ひどく、不安げな表情。


「ボク達…友達だよね、ミトス?」

「…え?うん、何言ってるの?」

「本当に友達だよね」

「う、うん…」

「ボク、信じてるからね」


縋るようなジーニアスの視線。
最後の問いに、ミトスは答えなかった。


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