「同じことだ。私は何者も差別されない世界を作ろうとしている。それが世界を救う道だ。人は異端の者に恐怖し、それを嫌悪する。自分と違う者が恐ろしいのだ。…ならば、皆が同じになればいい。エクスフィアを使い、体に流れる人やエルフの血をなくせば、この地上の者は全員、無機生命体化する。差別はなくなる。それが、私の望む千年王国だ」

「みんなが…同じ…」

「そうだ。ディザイアンもクルシスも、その為に組織されている。差別を生む種族の争いは消えるのだ、ジーニアス」

「…差別されなくなるの?本当に?」


確かに、無機生命体化することで差別はなくなるかもしれない。
天使化は、感覚を失い、心を失うから。
けれどそれでは、何もかもを感じることが出来なくなってしまう。

温かい。冷たい。
不味い。美味しい。
嬉しい。悲しい。
堅い。柔らかい。
好き。嫌い。
死ぬ。生きる。

‘生きる’ならば、大好きな味を覚えていたい。
嬉しいことも悲しいことも分かち合って、痛みを理解して、愛しい人の体温を感じていたい。

私は、そうやって‘生きて’いたい――。


「ジーニアス!騙されるな!その為のエクスフィアは、どうやって作られていた?マーブルさんみたいに、誰かの命が削られてエクスフィアが出来るんだ。そんなの…おかしいじゃねーか!」

「…改革に犠牲は付き物だ。それが分からないなら、ここで朽ち果てるがいい。ただし、神子は渡してもらう」

「…ダメだ!それだけはさせない!」

「ならば力ずくで奪うまで」


ユグドラシルの背で輝く羽が、一層強く煌めく。
ロイドらは武器を構え、クレアが詠唱を始めようと胸元に手を翳した、時だった。

コレットが、その場に崩れ落ちたのだ。


「…今だ!」


一瞬の隙を突き、ジーニアスの魔術が炸裂する。
詠唱時間が短かった為に威力の方は期待出来ないが、牽制するには充分だ。

彼の放った魔術は、ユグドラシルに命中した。


(え…?)


避けようと思えば、避けられたはずなのに。
いともたやすく防御出来たはずなのに。

なのにユグドラシルは、わざとそれをしなかった…?


「ユグドラシルさま!…この小僧!同族とはいえ、許せぬ!」


戸惑うクレアの目前に、五聖刃の長プロネーマが姿を現した。
怒りに眦を吊り上げた彼女が手を翳すと、マントのような黄金色の盾が宙に浮く。
円を描くようなそれの中心で、濃密なマナの塊が形成されていった。

彼女が狙うのは、紛れもなくジーニアス。
だが狙われている本人は足が竦んでしまっているのか、動くことが、逃げることが出来なかった。


「ジーニアス!」


伸ばした手が、彼に届くことはなかった。

ざくり。と、何かがえぐれる嫌な音。

しかしそれは、クレアにも、ジーニアスにも命中していない。
美しい金糸が、クレアの頬をくすぐった。


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