共に旅をしてきたのだ、こちらの手の内はすべて読まれているはず。
それに引き換えクレア達一行は、クラトスの本気を未だ知らない。

詠唱を始めたリフィルとクレアの足元に、巨大な魔法陣が出現した。


『っ、きゃああっ!』


鋭い風の刃が、二人を襲う。かまいたちを彷彿させる緑色それは、中級魔術の『エアスラスト』
しかし、その鋭さと早さは、同じ術を使用出来るジーニアスやクレアの比ではない。

咄嗟に発動させた防御壁も虚しく、散り散りに砕け散ってしまった。


「先生!クレア!」

「…っ、ロイド!よそ見してんじゃねぇ!」

「え…」


そうロイドに忠告したゼロスは、たった一人でクラトスの剣撃に耐えていた。
彼の背後には、足を引きずるしいなとプレセア。
彼女達と同じ、否、それ以上の怪我を負っているリーガルが、二人の治療にあたっていた。

しかし彼の治癒術「治癒功」は、術の対象者が一人に絞られる。
そして、術を唱えている間に味方のフォローがなくては成り立たない。


「みんな!」


確実に、押されていた。

たった一人でクラトスの攻撃を受けているゼロスは防戦一方で、しいなやプレセアは十分に戦える状態ではない。
回復にまわっているリーガルも、それは同じだ。


「滄溟たる波濤よ…戦渦となりて、厄を呑み込め!タイダルウェイブ!」


ジーニアスが発動させた水属性の上級魔術も、天使化したクラトスにとっては小川程度なのか。
水流に逆らい、彼がゼロスへの攻撃の手を緩めることはなかった。

勝ち目はないのか。

そう頭に過ぎった時、ロイドの耳に聞き慣れない詠唱呪文が届いた。


「…その力、穢れなく澄み渡り流るる…」


けれどこの声は、紛れもなくあの少女のものだ。
ずっと一緒に過ごしてきたのだ、聞き間違えるはずがない。

しかし、この呪文は…?


「…魂の輪廻に踏み入ることを許したまえ――」


彼女の背で光り輝く薄桃色の羽が、より一層強く煌めいた。


「リヴァヴィウサー!」


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