一言でいうなれば、ゼロスの妹は「可愛らしい」
ゼロスが女性ならばきっと「美しい」と形容するのだが、彼女の場合はあくまで「可愛らしい」
しかし彼らの髪の色は、誰が見ても間違いなく血の繋がりがある証だ。

綺麗な、紅色――。


「お兄…!…神子さま。またふらふらしていらっしゃいますのね」


白いブラウスにボリュームのあるスカート。
鍔の広い帽子を被っているこの少女がゼロスの妹「セレス」なのだろう。

彼女はゼロスの姿を捉えるなり嬉しさに頬を緩ませたが、それはほんの一瞬のこと。
すぐに仏頂面を取り繕った。


「よーう。お前に預けといた《クルシスの輝石》が必要になったんだ。返してくれ」

「…ご勝手に!どうせそれは元々神子さまのものですわ」

「悪いな」

「用事がお済みならお帰り下さいませ。さあ、早く!」


そう言うと、セレスは苦しそうに咳をする。
治まる気配のないそれに気づき誰よりも早く彼女の身体を支えたのは、ゼロスだった。
しかし彼女はゼロスの手を払い、一行に背を向ける。

どうやらセレスは身体が弱いらしい。
なのに誰にも頼らず咳を治めようとする彼女に、見兼ねたクレアがファーストエイドを唱えた。


「…ありが、とう…」


今にも消え入りそうなセレスの言葉に、クレアはにこりと微笑んだ。


「相変わらず、嫌われまくってるなぁ。俺さまかわいそー」

「あ…お兄さ…」

「ん?何かな、可愛い妹よ」


ゼロスが振り向き、にこりと微笑む。
セレスはその優しい視線から逃れるように、そっぽを向いて言い放った。


「…何でもありませんわ」

「あっそ」


それだけ言うと、ゼロスは階段を下っていった。
どうやらこの兄妹はお互いがお互い素直になれず、こうして意地を張り合っているようだ。

ゼロスの足音が遠くなったことを確認し、セレスが呟く。


「お気をつけて…」


本当は、兄の行く末を心配する心優しい妹。
本人に直接気持ちを伝えられないのは、彼女の性格故なのか。それともまた、二人の間に何かしらの事情があるのか…。

どちらにしろ、深い理由がありそうだ。


「…聞こえなかったぞ、今の」

「べ…別に何も言ってませんわ!ですからお兄さまに聞こえなくてもいいんですの!」

「あ、お兄さまって言った」

「い、言ってませんわ!あんな人、兄なんかではありません…。お帰りになって!」


ロイドらの指摘に、セレスは顔を赤くして声を荒げる。
クレアが制止をかけるよりも早く、彼女は再び激しく咳き込んだ。

彼女をベッドに横たわらせると、リフィルとクレアを残し、ロイド達は部屋を後にした。


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