「無事に戻ってきたな」

「やっぱ知ってたんだな。マナリーフを守る巨大植物のこと」

「うむ。もっともそれを伝えていたところで、お前達の行動は変わらなかっただろう。非常に強い意志を感じた」

「当たり前だ。大事な仲間の為だからな」

「ロイド…」


真っ直ぐに、語り部を見つめるロイドの瞳。
いつだってこの双眸は、迷うことなく前を見据えている。

勇気をくれる、優しい瞳。
一体どれだけの人間が、この鳶色に救われたのだろう。


「ところで…あなたはずっとここに住んでいるんですか?」

「そうだ。私はエルフの里の伝承を次代に受け継がせる者。ここでマナリーフの織物を作り、そこに様々な物語を編み込んでいるのだ。…空から飛来したエルフの伝承や、人の誕生。バラクラフ王廟の繁栄と衰退。天使の出現。大樹カーラーンとカーラーン大戦。…そして、勇者ミトスの物語」

「おいおいおい。勇者ミトスの話ってのは、ヘイムダールじゃ厳禁なんだろ」

「ここはヘイムダールではない。私はヘイムダールの掟に縛られないようここに住み、伝承を残している」


ならば。人の知識や伝記では限界のある勇者ミトスについて、今ここで話を聞いておくべきではないのだろうか。
クレア達一行の行く先には必ず、勇者ミトスの名前が出てくる。

精霊の契約にも、コレットの病気の治療にも。

そんな一行の意志を汲み取ったのか、語り部はゆっくりと口を開いた。


「ミトスは…ヘイムダールに生まれ、カーラーン大戦が始まると村を追放された哀れな異端者。村に帰る為に、三人の仲間と共にカーラーン大戦を終結させた」

「…異端者ってことは、まさかハーフエルフ…?」

「いかにも。ミトスはハーフエルフだった。ミトスの仲間もハーフエルフで、人間だったのはただ一人だけだ。彼らは異端視されながら、それを乗り越え、戦いを終結させたのだ」

「…そんな彼らの名が、何故ヘイムダールでは禁忌なのだ」


戦いを終結させた『英雄』であるはずなのに。

だん!と、地面を踏みつける音が聞こえた。
振り向いた先には、ジーニアスが憤慨の色を浮かべている。
どこか悲しそうに、彼は言った。


「ハーフエルフだからだ!」


いつだって、ハーフエルフは差別される。
エルフにも、人間にも。

歩み寄る勇気を、ほんの少しだけ持ってみた。
そうしたら、新しい友達が、心強い仲間が、帰るべき故郷が出来たんだ。

だけどやっぱり、差別の根はなくならない。


「…そうではない。オリジンに愛されし勇者ミトス。それは、堕ちた勇者の名前だからだ」

「堕ちた勇者?」

「オリジンを裏切り、オリジンから与えられた魔剣の力を利用して世界を二つに引き裂いたのは、他ならぬミトスとその仲間達。ミトス・ユグドラシルとその姉マーテル。そして彼らの仲間、ユアンとクラトス。4人の天使が世界を変質させた。故に、ヘイムダールでは禁忌なのだ」


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