「通行証なら、一人一億ガルドで発行するぞ」
と、老人は手を出す。
その時、クレアがコレットにそっと耳打ちする。
「ねぇ、あの大きな教典って…」
クレアが指をさした瞬間、老人が物凄い勢いで二人を振り向く。
「お前達は見る目がある!これはマナの神子様から買わせて戴いたものじゃ」
それに反応したロイドが懇願するも、無下に断られてしまう。
「いいじゃないか!コレットはマナのみ…」
――パシンッ!
リフィルの容赦ない平手打ちが、ジーニアスの後頭部へと炸裂する。
「マナのみ…?」
「マナの神子さまの持ち物を見せて戴きたいという信仰心の表れですわ」
すかさずリフィルが取り繕うと、老人は一呼吸置いてから言った。
「そんなに言うなら、清純派の嬢ちゃん達と美人の姉ちゃんには見せてやらんことはない」
「じゃあ…!」
コレットとクレアが顔を綻ばせる。
「…救いの小屋に飾ってあるスピリチュア像が欲しくて仕方ないのじゃ」
「けちだなー。見せるぐらいなんてことないのに」
「うるさい!金もない、像もないじゃ話にならん。もう帰ってくれ!」
ジーニアスの言葉が止めとなったのか、小屋を追い出されてしまった。
外には先刻よりも旅人が増えており、どうも人々の様子がおかしいのでクレアが理由を尋ねる。
「あの、どうかしたんですか?」
「あんた達も暫くここに居た方がいいぞ。間違ってもパルマコスタの方には行かない方がいい」
一人の男性客が答える。
周りを見回すと、皆が青ざめた表情をしている。
「パルマコスタで…なにかあったんですか」
「ディザイアン達が向かったらしいんです!」
「牧場の主、マグニスも一緒だという話だ…」
今度は旅業案内者らしき服装をした女性と、老人とが答える。
「一旦、パルマコスタへ引き返そう!」
ロイドの一言に皆が頷き、一斉に走り出した。
* * *一方のパルマコスタでは、話通り、広場にディザイアンが集結していた。
広場には、恐らく家から出るように命じられたのだろう、住民達の姿があった。
広場の中央には、絞首台が設置されており、両手首を後ろで縛られ、首に太い縄が通っている女性が立たされていた。
「お母さんっ!」
少女の悲鳴が広場に響く。
それは、先日ディザイアンと口論していた少女のものだった。
「この女は偉大なるマグニス様に逆らい、我々への資材の提供を断った」
「因って規定殺害数は超えるものの、処刑が執り行われることとなった」
その時、ディザイアン達が一斉に道を開ける。
そこを通って姿を現したのは、筋骨逞しい男。
真っ赤な髪を後ろで束ねていて、左目には大きな傷跡がある。
その時、漸くクレア達が到着する。
「この街の兵士達はどうしたのだ?」
「演習でほとんど出払ってるんだよ…」
クラトスが近くの住民に問うと、細々とした声で返事が返って来る。
その間も少女は必死に母へと手を伸ばすが、届くはずがなかった。
「動くな、そこの女!」
「下手に逆らうと、死んだ方がマシな思いをすることになるぞ」
しかし、少女は屈することなく、ディザイアンを睨み付ける。
「ドア総督がそんなこと許すもんですか!」
それを聞いたマグニスは豪快に笑い出す。
「ドアか…ガハハハハ!無駄な望みは捨てるんだなぁ!」
そして絞首台の近くに居た部下に、合図を下す。
「止めてぇー!!」
少女の悲痛な叫び声が広場中に響いた、その時だった。
「ウィンドカッター!」
クレアの魔術が炸裂する。
と同時に、ロイドも双剣を抜いていた。
「ダメよ二人共!ここをイセリアの二の舞にしたいの?」
リフィルが二人を宥めるが、その瞳に宿った意志は強く、揺るがない。
「目の前の人間も救えなくて、世界再生なんてやれるかよ!」
「…私も、こんな処刑を見過ごすなんて出来ません!」
ロイドの次に声を上げたのはコレットだった。
普段のおっとりした姿ではなく、凛とした態度であった。
「…神子の意志を尊重しよう!」
クラトスが長剣を抜き、広場中に響き渡るよう、声を張り上げる。
すると、先程まで絶望に打ち拉がれていた人々から、希望の光が見え始める。
「くそっ…まずはこの女の始末をつけてやる!」
再びマグニスが合図をし、女性が立っていた床の底が抜け、宙吊りの状態になる。
――その時。
風を切るようにして、投げたコレットのチャクラムが縄を断ち切る。
それを予測していたクレアが女性に駆け寄り、
「レデュース・ダメージ!」
円形の防御壁で、その身体を包み込む。
クレアの防御壁が解け、ディザイアンが二人に襲いかかろうとする。
「させないよ、アイストーネード!」
氷の嵐が巻き起こり、ディザイアン達はその場に倒れる。
そして、マグニスは一瞬、油断した。
「魔神剣・双牙!」
ロイドが剣を振るうと、二つの衝撃波が発生し、マグニスに襲いかかる。
「ぐっ!」
僅かに防御が遅れ、その場に跪く。
「もう…仕方のない子達ね」
リフィルが肩を竦める。
「ぐぅ…お前達!この連中の始末は任せたぞ」
マグニスは怒りに眦を吊り上げ、わなわなと身体を震わせるも、不意の一撃が効いたのか、光の柱に包まれ、その場から掻き消えた。
「よくもマグニス様を!さっさとくたばるがいい!」
その声を皮切りに、ディザイアンとの戦闘が開始した。
to be continued...
(09.07.25.)
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