噂とは恐ろしいもので、当人達の知らない間に大きく脚色され、広まる。
だがしかし、今回はその噂のおかげで難なくジルコンを入手出来たのだ。
どこで間違ったのかは知らないが「身の丈三メートルの死の天使」という設定に感謝しておこう。
次なる目的は、ヘイムダールでマナリーフを手に入れること。
村への入場が可能となる許可証を求め、クレア達一行は王城へと足を運んだ。
「父は…誰にも会いたくないと言っています」
「でも、俺達はヘイムダールに行かなきゃならないんだ。ヘイムダールへの許可証は、王さましか発行してないんだろ」
「姫からお口添えしていただけませんか?」
「…ゼロスがそこまで言うのなら、父に頼んでみます。少しお待ちなさい」
ちくりと胸の奥に痛みが走った。小さいけれど、大きな痛み。
胸がどきどき高鳴るのは、ゼロスのことが好きだから。
こんなにも苦しいのは、ゼロスのことが好きだから…?
「許可証が貰えたとしても…ヘイムダールはエルフ以外の生き物に冷たい村よ。マナリーフをわけてもらえるかどうか…」
「…何としてもわけてもらうさ」
コレットの命がかかっているのだから。
どんなに冷たくされたって諦めない。コレットを助ける為なら、頭を下げることだって厭わない。
「父からヘイムダールへの書状です。これがあれば村へ入れるでしょう」
「姫、感謝しますよ」
「ヘイムダールってどこにあるんだ?」
「世界の中心に救いの塔があるだろ?その南辺りだ。ユミルの森に囲まれた奥にあるらし…ん?」
ぎゅうっ、と。
ゼロスの服の裾を引っ張る弱々しい力。
振り向けば、今にも泣き出しそうなクレアがいた。
恥ずかしいのか悲しいのか、彼女はその大きな栗色いっぱいに涙を溜めている。
「私、は…」
自己中心的な人間だ。
こんなこと、今言うべきことじゃあないのに。
だけど…
今言っておかないと、後悔すると思ったから。
よく分からない気持ちに押し潰されてしまいそうだったから。
「ゼロスのことが、好き…。ゼロスがいなくなるのは、嫌…。嫌、なの」
いなくなるなんて一言も言っていないのに。
だけど、ヒルダ姫と話している時のゼロスは遠い人のように思えて。
手が届かなくなっちゃうんじゃないかって。
「クレアちゃん…」
「…っ、ふぇ…」
仲間達が、兵士達が、ヒルダ姫が見ている。
騒ぎを聞き付けたのか、噂好きで有名なメイド達もやって来た。
ロイドやしいなは頬を赤くし、ジーニアスはにやにや笑いながらこちらを見ている。
コレットに至っては、自身が大変な状況に置かれているはずだというのに、目を輝かせて二人の様子を見守っていた。
…ああもう、どうにでもなってしまえ!
「…っ、ゼロ…」
「黙って」
「!」
to be continued...
(11.03.03.)
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