船に乗って三日後、パルマコスタに到着した一行は、マックスに別れを告げ、封印の手掛かりを求めて街を探索する。
丁度、曲がり角に差し掛かった時だった。
「きゃうっ!」
「きゃあっ!」
――ガシャン!
コレットと反対側からやって来た少女とが衝突してしまい、少女が手にしていたワインの瓶が滑り落ち、砕け散る。
「す、すみません」
起き上がったコレットは、未だ尻餅をついている少女へと手を差し出す。
が、少女は割れてしまった瓶から流れ出るワインを見つめていて、それに気付かない。
すると、少女の後ろから別の声が聞こえた。
「おいおいねーちゃん、こいつは大事なワインなんだぜ?」
「すみません、今すぐ代わりのワインを買って来ますね」
「…代わりだと?そんなもので俺の気が収ま…」
「待ちな!」
今にも掴み掛かりそうだった男を、尖り帽子を被った女性が声を上げ、制止する。
「余計な騒ぎを起こすんじゃないよ」
「ちっ…さっさとワインを買って来な」
* * *「…とかなんとか言ってよー。口の悪いやつらだぜ」
「そう?誰かさんとあまり変わらないような気がするけどね」
そんな会話をしながら一件の店に入ると、中にはディザイアンが二人。
店の者と激しく口論しているようだった。
「ふざけないで!そんな安い値段で売れるもんですか!…あんた達みたいな奴には、グミ一つだって売りたくないのよ」
「なんだとこの女…!」
「よせ、これ以上の間引きはマグニス様の許可が必要だ」
一人のディザイアンが、今にも手にしている鞭を振るいそうだったが、もう一人がそれを宥める。
「…マグニス様の御意向次第では、命の保証はできないからな!」
「やれるもんですか!ドア総督がいる限り、あんた達になんて屈しないんだから」
彼等は悪態を付き、店を出ようと扉へ向かう。
顔を見られてはまずいと、皆は彼等から不自然な程に顔を逸らす。
…コレットとクレアを除いては。
「じゃあお母さん、仕事に行って来るね」
「ええ、気を付けてね」
そう言って少女がこちらへと向かって来る。
クレア達に気が付き、軽く会釈をしてから店を出る。
少女の母親らしき人物も一行に気付き、苦笑いする。
「お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません。気を取り直して見て行って下さいね」
* * *「…ほらよ」
「ああ、確かに。これに懲りて二度と人様に迷惑掛けるんじゃねぇぞ」
「はい、気を付けます」
何故かコレットが笑顔で答え、ワインを受け取った四人組は満足気に街の外へと歩みを進める。
わざとこちらに聞こえるようにしているのか、会話が聞こえて来る。
「ほいほいと家宝を下さるなんて、ドア総督も大したことありませんのね」
「アニキ!その家宝はどうするんで?」
「ふん、ハコネシア峠のジジイに売り付けるんだよ!」
「ほら、さっさと行くよあんた達!」
(あの人達、ハコネシア峠に向かうんだぁ…)
何を考える訳でもなく、クレアは思った。
用事を済ませた一行は、ワインを探す途中で手に入れた情報を元に、教会へと向かう。
広場に出ると、金髪で柔和そうな顔立ちの男性と、同じく綺麗な金髪をツインテールにして結ってある幼い少女とが居た。
その二人に、一人の少年が駆け寄る。
「ドア様!父ちゃん…牧場に連れて行かれたまま帰って来ないよ…。俺、いい子にしてたのに」
男は座り込み、少年の目線へと高さを合わせる。
「…辛いだろうが、もう少し我慢してくれ。約束しただろう?私が必ず牧場に連れて行かれた皆を助けると」
「大丈夫。お父様はこの街の皆の味方だもん」
少女の方は、見た目より随分と大人びた声をしていた。
「…ホント?」
「ああ、私は必ず皆を救い出すよ」
男性が少年の頭を優しく撫でると、分かった、と頷き走って行った。
それを見送り、少女の手を引いて総督府へと入って行く。
「あの、今の方は…」
「ドア総督じゃよ。義勇兵を募ってディザイアンに対抗しておられる、素晴らしい方じゃ」
クレアが近くの老人に声を掛けると、彼は誇らしい顔つきで語り出す。
一行は教会へ向かい、封印の手掛かりが記されている《再生の書》を求める。
そしてそれは現在、総督府にて安置されている、という情報を掴んだ。
「再生の書を貸して欲しいんだ」
ロイドの不躾な物の尋ね方に、ドアの隣りに居る若い男が眉を顰める。
「ご無礼をお許し下さい。…私達はこちらにおられる神子の世界再生を手伝っております。世界の未来のために、導師スピリチュアの足跡が知りたいのです」
リフィルが言った瞬間、
ドアと男の表情が険しいものとなり、目配せを交わして頷き合い、言う。
「神子さまはつい先程、我等の元にお越し下さったわ!神子さまの名を語る不届き者を即刻捕らえ、協会に引き渡せ!」
「えっ…わ、きゃあ!」
背後から迫って来た兵士に思わず後退りすると、コレットがクレアにぶつかり、その場で転倒してしまう。
その拍子に背中から天使の羽が出現する。
「まぁ…!お父様、ご覧になった!?あの方、羽が生えました!まるで天使様みたい」
天使の羽を目の当たりにした少女は、嬉々として声を上げる。
「ま、待て!皆、武器を収めよ!この方は間違いなくマナの神子さまだ!我等が無礼をお許し下さい、神子さま」
「あの、どうかお顔を上げて下さい」
勢い良く頭を下げた二人の男性に、コレットが戸惑いながらも言う。
「すると…再生の書を渡したあの神子は、偽者だったというのか」
「再生の書を渡したとはどういうことだ?」
ドアの呟きに、クラトスが怪訝な顔で尋ねる。
「先程、マナの神子を名乗る者が現われて、再生の書を渡すようにと言ってきたのだ」
それを耳にした瞬間、一同は静まり返る。
「その本の内容は覚えてねぇのか?」
「残念ながら…。天使言語で書かれているので、教会の人間でないと読めないのだ」
「じゃあ、偽者達を追い掛けたらどうかな?」
クレアが提案する。
「ハコネシア峠へ行くのね」
リフィルはニセ神子達の会話を、余すところなく記憶しているようだった。
「…では、行こうか」
クラトスがマントを翻し、此処に用はないと言わん許りに歩き出す。
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