「くそ!逃げられたか…」


本棚の奥に現れた抜け道は、王城に続いていた。
以前潜入した時にここを守っていたのは、教皇騎士団だったような気がしなくもない。
辺りを見回してみるが、教皇らしき人影は見当たらなかった。

代わりに、先ほどの騎士達の援軍が現れた。


「み、神子!すみません!ご覚悟を!」

「…え?わ、わわっ!」


騎士の攻撃をかわしたコレットの背に、天使の羽が現れた。
蝶でいうなら鱗粉に当たる、輝く粒子のようなものを生み出す薄桃色のそれは、反射的に出現したのだろう。その証拠に、コレット本人も戸惑っている。

しかし、騎士達の視線はコレットに、否、彼女の背で羽ばたく美しいそれに注がれていた。


「ひっ…ひぃぃぃぃ!」

「天使だ…!天使が降臨した!スピリチュアの再臨だ!!」


一行がなにかを仕掛けた訳でないのに、騎士達はがたがたと身を震わせ、武器を落とした。


「見ろ!お前達の神をも恐れぬ行為が、クルシスからの使いをもたらしたのだぞ」

「神子!ではやはり…!!」

「そう。彼女こそ死と破壊の天使、スピリチュアの再来だ!」

「お、お許しを…天使さま!!」


ゼロスと騎士の会話は展開していくのだが、クレア達はさっぱり理解出来ていない。
恐らく話の中心になっているであろうコレットさえ、首を傾げていた。


「おい、どうなってるんだ」

「いいから俺さまに調子を合わせろ。…天使さま、この者達の処遇はいかが致しましょう」


ぴこん。と、ロイドの頭上で豆電球が点灯した。
どうやらゼロスの意図を汲み取ったらしい。

コレットだけに聞こえるよう、ロイドは声を落としてこう言った。


「…コレット。殺すって言え」

「で、でも…」

「いいから。偉そうにな」

「えっと…死になさい」


普通なら、コレットの戸惑い具合ではったりだと気づきそうなものだが。
どうやら彼らにはそんな余裕も残っていないらしい。

まるで小動物のように、完全に縮こまっていた。


「お…お許しを!!どうか!!」

「天使さま!彼らの命、この神子に免じてお助け下さいませ。私は天使さまに仇なす者を倒し、再び神子としてマーテルさまの教えを広めて参りますゆえ、どうか…」

「許すって言ってやれ」

「あ、はい。…許しましょう」


ゼロスが、にやりと笑った。
やけに仰々しい演技も、ここまで気づかれなければ清々しいものだろう。
ゼロスの表情は、とても生き生きしていた。


「聞いたな!天使さまは、神子こそが教会の聖なる意志だと認定された。即刻引き返し、我に仇なす教皇とその私兵、教皇騎士団を捕らえるのだ!神子とその仲間への手配は、即刻撤回せよ!」

「わ、分かりました!皆のもの、神子さまの命令に従うのだ!」


逃げるように走り出した騎士達の後ろ姿を見送り、コレットは着地した。
嬉しそうに、一行を振り向く。


「すごい…!みんな、ゼロスの言うことを聞いてくれたね!」

「スピリチュア伝説に助けられたな」

「スピリチュア…?シルヴァラントの神子スピリチュアと関係があるのかしら?」

「さあなあ。詳しい話は教会の資料でも読んでくれ。とにかくスピリチュアは神子を蔑ろにした国王を殺して、神子を救ったことで有名なんだ」


シルヴァラントの神子スピリチュアと、直接的な繋がりがあるのかどうかは分からないが、どことなく、今の状況に似ている気がしなくもない。


「これでもう…追われることはないんでしょうか」

「教会関係は大丈夫だろ。あとは陛下だな」


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