どたどたと、複数の足音がこちらに向かってやってくる。それと同時に、鎧の擦れる金属音。
教皇が、厭らしく笑った。
「今、兵を呼んだ。ここで神子が死ねば、教会は名実共に私の配下となる」
「神子なしでマーテル教会が保てるものか」
「ふん。セレスがおるわ!」
「…やっぱりセレスを巻き込むつもりだったか。このひひじじいめ」
『セレス』その名前を耳にした瞬間、ゼロスの表情が険しいものになる。
普段の彼からは想像出来ないほどの、鋭い視線。
クレアは、左胸に手を翳した。
「神子がいけないのだ!お前のようないい加減な男が何故、神子なのだ!お前さえいなければ、私のハーフエルフ追放計画を邪魔する者はいなくなったのに!」
「人間は…どうしてボク達を邪魔にするの…」
「異端の者は排除される」
「ふざけるな!ハーフエルフだろうが何だろうがこの世に生まれた限り、誰だって何だって、そのままで生きてていいんだ!」
みんなそれぞれ‘心’を持っていて、たった一つの‘命’を持っている。
与えられた‘命’は平等なのに、誰が優れているだとか、誰が劣っているだとか、人は優劣をつけたがる。
人の‘命’に代わるものなど、この世にありはしないというのに。
「う、動くな!」
「!」
背後に現れた騎士達に気を取られていると、教皇が杖を二回鳴らす。
すると、彼の横にある古びた本棚が動き出した。
その奥にあるのは暗闇、どこかへ続く抜け道だ。
「おいおいおい。このままじゃ教皇に逃げられちまうぜ!」
「――エアスラスト!」
「う、うああああっ!」
クレアが初級魔術を唱えると、騎士達は情けない声を上げながら風圧に押され、壁に激突した。
今回、一人一人を相手にしている時間はない。
鎧のへこむ音が聞こえたその瞬間、騎士達は残らず気を失った。
「…クレア、ちゃん…」
「早くしないと逃げられちゃうよ!急ごう!」
「…お、おう!」
ロイドの手を取って走り出したクレア。そして、それに続く仲間達。
クレアの名を呼んだゼロスは、完全に出遅れていた。
クレアの攻撃によって気絶した騎士達を一瞥し、ゼロスは頭を掻いた。
「やり過ぎじゃねーの」と紡ごうとした唇は、苦笑いを浮かべている。
(しっかしまぁ…何に対してご立腹なのかねぇ)
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