テセアラのエクスフィアは、ヴァーリからロディルへと流れていた。クルシスの輝石に関する実験は、ロディルからヴァーリを通じ、教皇へと流れていた。
大方教皇は、協力する見返りに「国王の暗殺」を持ち掛けたに違いない。

クレア達一行は教皇の悪事を暴く為、マーテル教会大聖堂へと向かった。


「遅かったな」

「そりゃ、どーも失敬!」


にっこり。
ゼロスが柔らかい笑みを浮かべる。
それと対照的に、教皇の顔色はみるみる青くなっていった。


「陛下に…毒を盛ってるな?」

「…知らんな」

「本当にツラの皮が厚いなぁ」


苦笑しながら、ゼロスは腰の短剣を引き抜いた。
教皇の頬に宛がい、ひたひたと動かす。
恐怖で顔は引き攣っているものの、虚勢を張る余裕は残っているらしい。


「解毒剤はねぇのか?」

「…知らん!」

「じゃあこの毒薬は、あなたに飲んでもらいましょう。どうせすぐに効く薬ではないようだし…」

「…わ、分かった!机の引き出しの中だ!」


机の上には、大量の資料が積み上げられていた。
「ハーフエルフ処罰について」という見出しが、クレアの目に留まる。

コレットは引き出しの中から透明な液体の入った小瓶を探し当てた。
恐らくそれが解毒剤なのだろう。


「…ボク、あんたに聞きたいことがあったんだ。どうして、ケイトさんを利用しようとしたの!あんたの娘なんでしょ!」

「…う、うるさい。お前に何が分かる」

「分かんないよ!分かんないから聞いてるんだ。ばっかじゃないの!」

「ハーフエルフの娘を持つあんたが、どうして率先してハーフエルフを虐げる決まりを作るんだ」


今にもつかみ掛かりそうな勢いのジーニアスを宥め、ロイドが言う。

ハーフエルフの娘を持つならば、ハーフエルフを蔑視する決まりと戦うべきではないのだろうか。
何故、自ら進んでハーフエルフを…娘を苦しめるのか、ジーニアスには理解出来ない。否、理解はしているのだ。それを、認めたくないだけ…。

ゼロスは短剣を鞘に戻した。解毒剤が手に入った今、教皇を追い詰める意味はない。


「ハーフエルフか…。わしだって若い頃は、ハーフエルフを虐げる制度は間違っていると考えていた。だが…お前達には分かるか?自分だけがひどく老いていき、同じ血が流れているはずの子供は、老いることがないという恐怖が」

「そんなの、ケイトのせいじゃない。ハーフエルフは…そういう生き物なんだ」

「そうだ!だから疎まれる!わしは…自分の娘がハーフエルフだからこそ、彼らを虐げる者の気持ちが分かるのだ。恐ろしいのだよ、娘が!!」


教皇は、手にしていた杖で地面を叩いた。

ハーフエルフやエルフは、人間とは比べものにならないほど長生きだ。
同じスピードで成長するのは、子供の時だけ。成人を迎えると、見た目の成長がゆっくりになる。

彼らは、途方もない年月を過ごさなくてはならない。


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