「…ファーストエイド」
ミトスの頬に手を翳し、治癒術を唱えるクレア。
「大したことはない」と本人の口から聞いたばかりではあるが、頬のガーゼに血が染みている。
大したことはなくとも、完治はしていないのだ。
「もう、痛くない?」
「うん…。大丈夫だよ。ありがとう、クレア」
ミトスが微笑む。
柔らかく美しく、それでいてどこか儚いような。
あまりにも綺麗すぎるその微笑みに、クレアは思わず見入ってしまう。
大きなミントグリーンが、ぱちぱちと瞬いた。
「クレアは…」
「え?」
「クレアは優しいね」
思いもよらぬ言葉に、今度はクレアの栗色がぱちぱちと瞬いた。
首を傾げれば、ミトスが照れ臭そうに微笑む。
先ほどのものとは違う、あたたかい笑顔。
「…ハーフエルフのボクにも、普通に接してくれるじゃない。今だって、傷を治してくれたし」
「ハーフエルフだとか、エルフだとか人間だとか、そんなの関係ないよ?私にとってミトスは大切な友達だもん」
「……うん」
「私ね…いつも、いつも…大切な友達を助けてあげることが出来ないの」
天使化の真の意味を知っていて。それなのに、コレットを助けてあげることが出来なかった。
今回の『永続天使性無機結晶症』も、自分の力だけではどうすることも出来ない。
それだけではない。気づいてやることすら、出来なかった。
何度後悔したのだろう。
間違えないと心に誓ったはずなのに、私はまた…
「気づいてあげられたら、助けてあげられたら、私にもっと…力があったら。その友達は苦しまずに済んだのに…。だから私は、自分に出来ることなら、自分に治すことが出来る傷なら必ず…」
「クレア」
「…あ。ごっ、ごめんね!急にこんな話しちゃって…」
「ううん。やっぱりクレアは優しいよ。一人の友達の為に、こんなに悩んであげられるんだもん」
「ミトス…」
大切な人が苦しんでいるというのに、自分の力だけではどうにもならない歯痒さ。
あまりの無力さに、嘆くこともあった。
力があれば、コレットは苦しまずに済んだのに…
「大丈夫。クレアがこんなにも願ってるんだからきっと、その友達を助ける方法は見つかるよ」
「ミトス…ありがとう」
絶対、コレットを助ける方法はあるはずなんだ。
だから、諦めない。
諦めちゃいけない。
大切な友達の為に、少しでも出来ることを。
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