「いくらエクスフィアの進化系だとかいわれても、クルシスの輝石のことはさっぱりだ。その、テセアラとかいうところの、ドワーフに訊ねた方がいいかもしれねぇな」

「そうか…。親父でも、分からねぇか」

「すまねぇな、役に立てなくて…。せめて、今日はゆっくりしていくといい」


日も、大分暮れてきている。それに、久しぶりの親子再会なのだ。
積もる話もあるだろう。
一行は、ダイクの言葉に甘えることにした。


「…私は失礼する」

「お、おう…」


しかしクラトスは、ダイクに一礼すると、マントを翻して家を出た。
恐らく、クルシスへ戻るのだろう。
…彼は、敵なのだから。


「待てよ!本当に、クルシスへ帰るのか?」

「…私はクルシスの天使だ」

「だったら、何でユグドラシルの命令通り《大いなる実り》の暴走を放置しなかったんだ」

「私には、私の考えがある。…それだけだ。結果として、マーテルは失われなかった。これは、ユグドラシルの望みにかなっている」

「…あんたはやっぱり…敵なのか?」


彼がクルシスに属していることも、ユグドラシルに頭を垂れたことも、天使であることも、刀を向けられたことも、すべて現実だ。
だがロイドは、クラトスのことを『敵』だと思いたくなかった…のかもしれない。

そう思うのは、共に旅をしていた頃の記憶が抜けないからか何なのか。
ロイド自身もよく分かっていないようだ。


「…ロイド」

「な、何だ…」

「神子を救いたければ…まずはテセアラに向かうことだ。詳しいことは、クレアが知っている」

「ま、待てよ!あんた人間なんだろ!どうしてクルシスにいるんだ!それに、詳しいことはクレアが知ってるって…」

「あの少女から、目を離すな」


ロイドはそれ以上クラトスを追うことが出来なかった。
何故かは分からない。

その場に立ち尽くすロイドの頬を、風がくすぐる。


「…クラトスは…何を考えてるんだ…」


敵であるはずなのに、何度も一行に助言を残す。
それだけではない。共に牧場に潜入して、仲間であるはずのディザイアンを薙ぎ倒してきた。

そして気になるのは、彼が残した最後の言葉。
一人で考えても埒が明かないと思ったロイドは、豊かな緑に混じる薄紫色を見つけた。

――しいなだ。


「今出ていったのは、クラトスじゃないのかい?」

「ああ…クルシスへ帰っていった」

「そうか…やっぱり敵なんだねぇ」

「そうだな。…それより、お疲れ様」

「ああ、あんたもね!よかったよ。…大樹の暴走がおさまって」


ロイドの笑顔に、しいなは思わず頬を染める。
それを見られないよう、顔を背けたその時、ちりん。と、鈴の音が優しく鳴り響いたのだった。


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