ロイド達が外へ出ると、村人達が学校の前に集まっていた。
子供から大人まで、村人全員が集められている様子だ。
そしてその中心には、悪態をつく村長が。

彼は、ロイド達の姿を見つけるなり、迷うことなく怒りの矛先を向けた。


「まったくけしからん!追放した者が勝手に村に戻り、神子は盛大に失敗して、これでは世界は終わりじゃ!…おまけに、エルフと思っていた連中はハーフエルフだと!?大方、村を襲ったディザイアンを手引きしたのも、お前達なのだろう」

「な…何だと!」

「およしなさい、ジーニアス」

「ハーフエルフの分際で、よくもエルフを名乗ることが出来たものだ」


『ハーフエルフだから』今まで生きてきて、何度も耳にした、その言葉。
身体に流れている血が違うという理由だけで、非難され、差別される。

半分は、エルフの血。
半分は、人間の血。

半分は、あなた達と同じ血が流れているのに。
やはり、種族の溝は、差別の根はなくならない。


「あのなー!さっきから黙って聞いてりゃ、勝手なことばかり言いやがって!先生もジーニアスも確かにハーフエルフだけど、だから何なんだ!ハーフエルフにだっていい奴がいれば、人間にだって悪い奴はいるだろ!」

「ふん!子供が何を言うか。お前のような、ドワーフに育てられた奴が、神子の旅についていったのが、失敗の原因だ。薄汚い収容人達まで連れてきおって…!まったく、よくも善良なわしら人間をひどい目にあわせてくれた…」


ハーフエルフに生まれたから。ドワーフに育てられたから。それが一体、なんだというのだ。
生まれが違っても、育った環境が違っても、種族が違っても、みんな‘心’は一緒なのに…。


「いい加減にして!何から何まで文句を付けて!あんた、口以外はまともに動かないんじゃないの!」

「なっ…何を言うか!ここは、ディザイアンとの協定を結んでいるのだ!わしには村を護る義務がある。そうだろう、みんな!」


ショコラに強く言われ、村人に同意を求める村長。
しかし、誰一人として彼の意見に賛同する者はいなかった。
だが、反論する者もいない。
「何とか言わんか!」叱咤する村長に意見したのは、ロイドらと同じ学校に通う、級友達だった。


「ジーニアスは、村で一番頭がいいんだよ。村長さんが知らない『いんすうぶんかい』ってのも知ってるんだよ」

「リフィル先生は怒ると怖いけど…でも、答えが分かると一緒に喜んでくれるの」


『ハーフエルフだから』聞き飽きた、その言葉。
種族なんかじゃなくて、自分という個人を見てほしいのに、みんなが離れていくから、嘘をつかなくちゃいけない。

いつかばれてしまうんじゃないかと、怯えながら暮らす毎日。

だけど――


「ロイドは、お勉強は出来ないけど、村で一番強いんだよ。ボク、魔物に教われた時、助けてもらったもん」

「コレットはね、いつも転んでばっかりいるの。でも、泣かないの。痛くても泣かないの。コレットはえらいの」

「クレアは、いつも楽しそうに笑ってる。みんな、クレアの笑顔が大好きなんだよ」


理解してくれる人がいた。
分かってくれる人がいた。
こんなにも純粋に、自分達のことを想ってくれている。


「っ…!」


感情の抑制がきかなくなったリフィルは、家の方へと駆け出した。
ジーニアスは嬉しそうに、けれどどこか困ったような表情で、見えなくなるリフィルの背中を追い続けた。


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